最新記事

自由貿易

アメリカともカナダとも貿易協定をまとめられないEUの末期症状

2016年10月25日(火)16時35分
デービッド・フランシス

EUに拒否され慰め合う?オバマ(右)とカナダのトルドー首相 Jonathan Ernst-REUTERS

 アメリカと欧州連合(EU)は、双方における自由貿易圏の確立を目指す大型貿易協定、TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ)をめぐって話し合いを行ってきたが、交渉が崩壊寸前となっている。だが、EUとの協定を成立させられないのはアメリカ政府だけではないようだ。

【参考記事】アメリカとEUが夢見る巨大な自由貿易圏

 カナダのクリスティア・フリーランド国際貿易相は10月21日、カナダ・ヨーロッパ版のTTIP、包括的経済貿易協定(CETA)に関する交渉は決裂したと発表した。ヨーロッパ側はCETA成立の望みをまだ失っていないが、カナダがその可能性を否定したかたちだ。

「いまのEUには国際協定を結ぶ力がないことは明白だ。たとえヨーロッパ的価値観を持つカナダのような国が相手であっても、だ」。フリーランドは21日にベルギーでそう述べ、合意に達することはもはや「不可能だ」と付け加えた。

 CETAの承認に難色を示しているのは、ベルギー南部のフランス語圏である人口350万人のワロン地域だけ。人口5億人のEUの貿易協定に、350万人がストップをかけているのだ。ワロン地域のポール・マニェット首相は、同地域はCETAについて決断を下す準備が整っていないと述べている。

【参考記事】ベルギーのワロン地域政府、EUカナダ貿易協定締結を求める圧力に屈せず

 報道によると、マニェット首相は21日、「わたしはもう少し時間をくれるように求めただけなのだが、カナダ側は首を縦に振らなかった」と語ったという。「残念に思うが、(カナダ側の)建設的で心のこもったアプローチには感謝したい。いつか話し合いが再開されるかもしれない」

相次ぐ失敗の理由

 CETAの交渉決裂と時を同じくして、わずか1年前には不可避と思われていたほかのグローバル貿易協定も計画倒れに終わりつつある。アメリカ・太平洋地域11カ国間のTPP(環太平洋パートナーシップ協定)は臨終間際。米議会の有力者たちがバラク・オバマ大統領に対し、同大統領の任期が終わる年内にはT議会を通さないと言っているからだ。

 貿易交渉の行き詰まりの理由のひとつは、ここ1年の間にヨーロッパとアメリカでポピュリズムが台頭したことだ。自由貿易主義者たちの主張は、「貿易自由化は雇用や製造業に大きな打撃を与える」という非難の声にかき消されてきた。

【参考記事】民主党大会でTPPに暗雲、ヒラリーが迷い込んだ袋小路

 CETAとTTIPの交渉の今回の失敗は、ヨーロッパで拡大する政治的機能不全も反映している。イギリスが6月にEU離脱を決断して以来、加盟国間で長年くすぶり続けてきた相互不信が浮き彫りになり、外からEUへの疑念も広まっているのだ。

 エストニアのターヴィ・ロイヴァス首相は、ヨーロッパの指導者たちとの会談を終えたあと、一連の貿易交渉が行き詰まったせいで、EUの「連合としての信頼性は危機に瀕している」と述べた。

「もしヨーロッパがCETAで失敗したら、TTIPの成功を想像することは非常に難しくなる」ロイヴァス首相は語った。「これは非常に深刻な問題だ」

From Foreign Policy Magazine

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

26年度予算案の想定金利3%程度で調整、29年ぶり

ワールド

メルセデス、ディーゼル排ガス不正で米州と和解 1.

ワールド

情報BOX:ロシアの脅威に備えよ 欧州が兵力増強 

ビジネス

米FDA、ノボの肥満治療薬「ウゴービ」経口錠を承認
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中