最新記事

香港

「政治冷感」の香港で注目を集める新議員、朱凱廸とは?

2016年9月26日(月)11時36分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

本土派の台頭と激烈な非親中派同士の争い

 親中派と非親中派という大枠に変動がない以上、起きるのは"コップの中の争い"となる。親中派も政党はいくつかに分かれているが、立候補時点ではすでに調整済みで食い合わないようになっている。

 問題は非親中派だ。ウィキペディアで「香港の政党」という項目(中国語版)を引くと、議席を持つ非親中派政党が11も列挙される。「民主党、公民党、工党、街坊工友服務処、公共専業聯盟、香港教育専業人員協会」(民主派)、「青年新政、香港衆志、小麗民主教室、土地正義聯盟、熱血公民」(本土派)という構成。人口700万人の都市でなぜこれほど乱立できるのかと不思議に思う。

 ただ、親中派の議席を打ち減らすことが難しい以上、非親中派の中で誰が議席を獲得するかという戦いしか残されていないのもいたしかたないのだろう。今年7月、香港のデモを取材し何人かの政党関係者に非親中派連合の可能性を聞いたが、熱血公民の黄洋達氏が「選挙後に連携する可能性はあるが、選挙前は無理だろう」と断言するなど、ほとんどが否定的な意見だった。

【参考記事】「民主主義ってこれだ!」を香港で叫ぶ――「七一游行」体験記

 特に注目されたのが本土派の台頭だ。本土派とは「中国とは違う香港現地主義を志向するグループ」という意味だ。従来の民主派は、大きくまとめると「香港は中国の一部と認め、その上で香港、さらには中国全体の民主を目指す」という発想だ。

 面倒なことに本土派も独立を目指すか、自決を目指すかでさらに二分される。このうち断固独立を目指す本土民主前線、香港民族党は立候補が認められず、選挙に参加ができなかった。「香港人の未来は香港人が決める」がスローガンの自決派もさらに三分される。

 今回議席を獲得した5政党を分類すると、(1)急増する中国人移民、観光客に反発し「香港の憲法制定を」と訴えるオールド本土派の熱血公民が1議席、(2)限りなく独立寄りだが選挙に参加するためにとりあえずぼかして自決という言葉を使っている青年新政が2議席、(3)自決という言葉を使っているものの、過激な独立志向とは一線を引き、旧来の民主派との関係が深い香港衆志(デモシスト)、土地正義聯(連)盟、小麗民主教室が1議席ずつという内訳になる。

 非親中派は29議席を獲得したが、民主派は23議席、本土派は6議席という内訳。民主派は前回選挙から4議席減らしており、その分を本土派が食ったことになる。非親中派というコップの中身にやや変化が生まれたことが事実だ。

変わる香港、朱凱廸ブームに対する期待

 ここまでの論をまとめよう。

「選挙制度的に親中派と非親中派の議席比率はほぼ一定。そのため非親中派は内部での闘争がメインになる。本土派台頭で注目された今回の選挙も構図は変わっていない」

 残念感あふれる話なのだが、最後に一つ、注目するべき"画期"について取り上げたい。それは土地正義連盟の朱凱廸氏の存在だ。先に本土派(民主派寄りの自決派)と分類したが、それは香港衆志、小麗民主教室と提携していたがため。彼の主張の力点はむしろ「親中派と非親中派」の枠外にある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月耐久財受注16.4%増、航空機受注急増が押し

ビジネス

米新規失業保険申請1万件減、継続受給件数は21年1

ワールド

米国防長官、イランの濃縮ウラン移動情報認識せず ト

ワールド

ロシア軍、ウクライナ東部でリチウム鉱床近くの集落を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    単なる「スシ・ビール」を超えた...「賛否分かれる」…
  • 10
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中