最新記事

BOOKS

子どもへの愛情を口にしながら、わが子を殺す親たち

2016年9月13日(火)06時21分
印南敦史(作家、書評家)

 このようなことになっても、後日帰宅した幸裕は理玖くんの死を知りながら警察に通報することもなく、遺体を放置したまま逃走。さらには理玖くんの死を隠して児童手当などを不正受給したというのだ。しかし、そうした事実以上に問題視されるべきは、著者が拘置所で面会した際の幸裕の言動だ。


「俺は理玖を殺してなんかいないっすよ。それに、あいつの責任はどうなんすか!」
 これまでの公判から判断するに、あいつとは幸裕の妻、愛美佳(あみか、仮名)にちがいなかった。(中略)幸裕はいら立ち、アトピー性皮膚炎の腕や首をかきむしってつづけた。
「俺、二年以上一人で理玖を育てたんですよ。メシもあげた、オムツも交換した、体もふいてた、遊ばせてだっていた。やることやってたんす。なのに、なんで殺人とか言われて捕まんなきゃなんねえんすか。おかしいっすよね!」(16ページより)

 つまり彼は、自分が「やることやってた」と信じて疑わないのである。そして、自分が不当な扱いを受けていると本気で思っている。常人にはとうてい理解できない感覚だが、それが彼にとっての「普通」なのだ。そして同じことは、他の2事件の犯人にもいえる。

【参考記事】日本の貧困は「オシャレで携帯も持っている」から見えにくい

「下田市嬰児連続殺害事件」の犯人である高野愛(いつみ)の、裁判員裁判での様子についてこのような記述がある。


彼女は、若くしてすでに十一歳の長女を含め三人の子供を育てている母親だったが、その受け答えはあまりにたどたどしかった。
 たとえば、事件についてどう考えているかと訊かれた時の返答が次だ。
「こんな事件起きちゃって、子供たちにごめんって思ってるから、そう言ってみたいです」
 また、なぜ赤ん坊を殺害したのかと問われてこう答えている。
「なんとかなるって思っちゃってたんですけど、そうならなかったから、困って......でも、私が悪いって思います」
 彼女は県立高校の普通科に通う学力はあったし、ジョナサン(筆者注:愛の勤務先)でも愛嬌をふりまきながら十年間ちゃんと勤めている。知的レベルが著しく低いわけでもないのに、実際に彼女の口から出てくるのは、小学校低学年の子の下手な言い訳のような返答ばかりだった。(98ページより)

 そして 「足立区ウサギ用ケージ監禁虐待死事件」の犯人である皆川忍と妻の朋美にも、似たような側面がある。


 裁判官や検察官は、たびたび二人に対して玲空斗君への虐待の実態や死体を遺棄した場所などについて尋ねた。忍は玲花ちゃんへの虐待については一部認めたものの、玲空斗君に対しては「してません」の一点張。質問にはほとんど一言でしか答えず、都合の悪いところは黙るかごまかすかした。(中略)
――玲花ちゃんをリードでつなぐというのはやり過ぎだと考えなかった?
「考えました。けど、まぁわかってくれるのかなという気持ち」(中略)
 朋美に関しては、責任逃れの言葉だけが目立った。裁判は途中から分離されることになるのだが、朋美はそれを機に、虐待は忍が勝手に行ったと主張したのである。自分は妊婦だったし、精神的な病気に苦しんでいたため、何もできることはなかった、と。(186~187ページより)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、不法滞在者の送還拡大に言及 「全リソー

ビジネス

焦点:日鉄、巨額投資早期に回収か トランプ米政権の

ビジネス

香港取引所、東南アジア・中東企業の誘致目指す=CE

ワールド

米ミネソタ州議員射殺事件、容疑者なお逃走中 標的リ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中