最新記事

難民支援

ギリシャの『国境なき医師団』で聞く、「今、ここで起きていること」

2016年9月7日(水)17時05分
いとうせいこう

 実際は一対一などではないと俺は思う。あえて言えば、あらゆる国の難民たちがシリア難民に権利を譲らされるのに近い状況なのだ。世界政治の複雑怪奇さが生み出した、これは非情な数学なのに違いない。

 シリアの中でアサド政権反政府勢力が戦い、ISが勢力拡大を狙い、政権側のバックにロシアがいて、反政府軍はアメリカに支援を受ける。かの国の中の政治状況は泥沼化の一途をたどっている。シリアだけで1000万人以上の難民・避難民という現実から、その危機がいかに大きいかわかる。
 そこに、まずEUは援助をする。

 けれど、難民はアフガニスタンからも来るのだ。
 アフリカ諸国からも来る。
 イラクからもやって来る。

 彼らは見捨てられ、日々増加し続けている。
@MSF_sea←例えばこのツイッターアカウントをのぞいてみて欲しい。今日どんなゴムボートが救助されたか、沈んでしまったかが日々報告されているから)

イドメニに今は3000人」

 マリエッタさんは黒く大きな瞳をこちらに向けて言った。左手の指先はマケドニア国境を差していた。

 「それから市内のエリニコ、ここは昔空港だった敷地ですが、そこに1000人。他にも市内には700人。テルモピレス難民キャンプに200人」

 示される場所は次々変わった。全土あちこちへと指は動いた。様々なギリシャの地名を俺はおかげで知った。

 「あなたがたが取材する予定の市内のピレウス港にもまだ1300人が残っています。なにしろ私たちのギリシャ全体の約50のキャンプに5万5千を超える難民の方々がいるんですから」

 MSFはそのうち、アテネ市内、イドメニ、レスボスサモスなどのエーゲ海の島々で医療を提供し、他の援助団体との連携の中で多くの救護活動をしていた。

 あたかもひとつの国の中で静かな戦争が起こっており、見えない怪我や死を迎える他者が少しずつ固まって収容所が出来ているかのようだった。経済破綻で強いイメージを作ってしまったギリシャは、同時にそうした不可視の内紛がモザイク状に展開する国と化していた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

高市政権の経済対策「柱だて」追加へ、新たに予備費計

ビジネス

アングル:長期金利1.8%視野、「責任ある積極財政

ビジネス

米SEC、仮想通貨業界を重点監督対象とせず

ビジネス

ビットコイン9万ドル割れ、リスク志向後退 機関投資
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国か
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 7
    山本由伸が変えた「常識」──メジャーを揺るがせた235…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中