最新記事

銃規制

黒人射殺事件の連鎖を生む元凶は

2016年8月29日(月)16時00分
ダーリア・リスウィック(司法ジャーナリスト)、マーク・P・マッケナ(ノートルダム大学法科大学院教授)

 問題をひときわ難しくしているのは、意識的・無意識的な人種偏見だ。警官が民間人を脅威と見なすかどうか、特に相手が銃を所持していると見なすかどうかでは、常に有色人種に不利な判断が下される。

 白人男性が銃を持ち歩いているのを見ても恐怖を感じる人はいるだろうが、警察に通報される確率は黒人男性より低い。このような偏見は、警官による銃撃事件の件数にも表れている。

 非営利報道機関プロバブリカの14年10月の記事によると、若い黒人男性が警官に射殺される確率は、若い白人男性の21倍だ。「連邦政府のデータによれば、10~12年に警官の銃撃により死亡した人は合計1217人。15~19歳の黒人男性がこの中に含まれる割合は、100万人当たり31・17人にも上る。同じ年齢層の白人男性の場合は、1・47人にすぎない」

 こうした人種間の不平等は、黒人男性が銃を持っていない場合にも見られる。最近の研究によると、「武器を持っていない黒人が警官に射殺される確率は、武器を持っていない白人の約3.49倍に達する」という。

 バトンルージュとセントポールの事件の教訓は、黒人にとって、町で警官に呼び止められることを恐れるのが合理的な反応だということだ。一方、ダラスの事件の教訓は、警官にとって、市民が銃を持っていると恐れるのが客観的に見て合理的な反応だということだ。

 こうして警官と黒人が互いに不信感を抱き、恐怖とパニックに陥っている。このような反応を合理的なものにしているのは、殺傷能力の高い武器である銃が野放しになっている現実だ。

 この状況が変わらなければ、今後も警察と市民の両方で多くの人命が失われるだろう。そして、命を奪われる人はいつも白人よりも黒人のほうが多い。

 警察に抗議する黒人たちを支持するか、警察を支持するかという二者択一の議論をする必要はない。唯一の合理的な道は、黒人と警官の両方の恐怖を取り除くことだ。

© 2016, Slate

[2016年7月19日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米銀の民間信用貸付向け融資急増、10年前の3倍に=

ビジネス

トランプ政権、量子コンピューター企業数社と出資交渉

ビジネス

ルノー、第3四半期は6.8%増収 市場予想上回る

ワールド

石油・ガス部門のメタン大量湧出、通告しても対応わず
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシアに続くのは意外な「あの国」!?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 7
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 8
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 9
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中