最新記事

月面基地

中国、月に有人基地建設を計画:強力レーダーで地球を観測

2016年8月25日(木)17時10分
高森郁哉

hkeita-iStock

 中国政府が、月面に有人レーダー基地を建設する計画を進めている。香港メディアの南華早報(サウスチャイナ・モーニング・ポスト)が8月21日に報じ米ニューズウィークなど多くの外国メディアも取り上げた。

月面に高さ50mのレーダーアンテナ

 報道によると、この政府プロジェクトは今年スタート。すでに中国国家自然科学基金委員会から、事業化調査用の資金1600万元(約2億4000万円)を割り当てられたという。

 科学調査と防衛を目的とした基地には、宇宙飛行士用の居住区のほかに、高さ50メートル以上のレーダーアンテナ列が設置される可能性がある。レーダーから放射する強力なマイクロ波により、雲だけでなく地表も貫通して、陸地、海中、地下まで観測できるという。

発案者は3年前に論文発表

 プロジェクトのリーダーを務めるのは、中国科学院のレーダー技術専門家、郭華東教授。同教授は3年前、学術誌「中国科学:地球科学」に寄稿した論文で初めて月面レーダー基地を提案した。

 論文では、地球を観測するプラットフォームとして、「人工衛星や宇宙ステーションと比較すると、月面基地には安定性や耐久性など多くの利点がある」と主張。月のレーダーで集められたデータは、「異常気象、地球規模の地震活動、農業生産、極地氷冠の融解などさまざまな科学研究課題に役立つ」と記した。

 一方で、地球に到達するほどの高強度無線ビームを送出するレーダー基地には、膨大な電力が必要となり、「太陽光または原子力で発電する施設の併設が不可欠」と指摘。また、レーダーによって1秒あたりに生じるデータ容量は1.4ギガバイトで、現在の長距離宇宙通信技術の帯域幅をはるかに超えるものの、「基地に常駐する人員が情報をオンサイトで処理するなら問題ない」と、郭教授は書き添えている。

中国の研究者も懐疑的

 この計画に対し、南華早報にコメントを求められた研究者たちは、資金と時間と人材の浪費だとして懐疑的だ。ある中国本土の宇宙科学者は、「常軌を逸したアイデアだ」と酷評。それほど大きな月面基地を建設する費用は、「スパイ衛星で空を埋めつくすより高くつく」と批判した。

 いずれにせよ、郭教授のチームは事業化調査の最終レポートを2020年までに提出する予定だ。それまでにプロジェクトが「重要な技術的飛躍」を遂げることを、中国政府は期待している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指

ビジネス

米マスターカード、1─3月期増収確保 トランプ関税

ワールド

イラン産石油購入者に「二次的制裁」、トランプ氏が警

ワールド

トランプ氏、2日に26年度予算公表=報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中