最新記事

東南アジア

メコン川を襲う世界最悪の水危機

2016年8月10日(水)17時10分
ジェニファー・リグビー

カギを握る女性の活躍

 ベトナムのメコンデルタでは今もコメ栽培が主流だから、農業の技術革新は大変革をもたらす可能性がある。現状では干ばつや洪水に加え、海面上昇により海水がデルタの肥沃な土地をむしばむ「塩水浸入」なども、作物栽培を脅かしている。

 研究者らは2~3週間にわたる浸水にも耐えられるコメの品種を開発・実験するなど、対策を講じている。一方で、干ばつや塩水浸入に強い品種も多数、開発が進められている。

 もちろん、今の時代らしいツールもある。「コメ栽培管理アプリ」が農家に肥料などのおすすめ情報を提供。研究者たちは、塩水浸入レベルを警告する機能なども加えようと開発中だ。

 もう1つ、メコン流域の未来に大きな影響を及ぼす21世紀ならではの対策がある。女性の権利向上を進めることだ。「技術革新を進める上で女性の関与は欠かせない」と、シディキーは言う。アジアの農業従事者の40%が女性だが、その立場は弱く、情報や訓練、肥料を得るのですら苦労している。女性が積極的に参加すれば、同地域の年間収穫量は30%上昇すると、国連食糧農業機関は試算する。

【参考記事】ゲリラ豪雨を育てるミクロの粒子

 アンコールワットの近くで農業を営むトング・トロムがいい例だ。彼女はNGOの支援を受け、乾期中の作物栽培の技術を習得した。その1つが、欧米のガーデニングで使用されているグローバッグの中で野菜を栽培するというものだ。

「ほかの女性にもこの手法を教えていこうと思う」と、彼女は言う。「日に日に悪化していく環境が心配でならないから」

[2016年8月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米バークシャーによる株買い増し、「戦略に信任得てい

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏

ワールド

インド製造業PMI、4月改定値は10カ月ぶり高水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中