最新記事

イギリス

イギリスがEU国民投票で離脱を決断へ──疑問点をまとめてみた

2016年6月24日(金)16時35分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

 社会全体では、「他人にあれこれ言われたくない」「自分のことは自分で決めたい」という感情が非常に強い。だから常に、政府でも地方自治体でもいいが、いわゆる統治者・管理者が何かを上から押さえつけようとすると、「反対!」と叫ぶために抗議デモが起きる。

 EUが拡大して、EU合衆国になる......というのはまっぴらごめんと言う感覚がある。

 イギリスの司法、ビジネス、生活に及ぼすEUのさまざまな細かい規定を「干渉」と見なす人も多い。

 今回の国民投票の話以前に、もろもろのこうした底流が存在していた。

──政治的な動き

 底流での流れが政治的な動きにつながってゆくきっかけは、2004年の旧東欧諸国のEU加盟と2007~08年からの世界金融危機。

 04年、10カ国の新規加盟に対し、各国は人やモノの受け入れのための準備・猶予期間を数年間、導入した。しかし、イギリスは制限を付けなかった。そこで、最初から自由に人が出入りできるようになった。

 ポーランド人の大工、水道工やハンガリー人のウェイターが目につくようになり、東欧食品の専門店があちこちにできてゆく。若く、仕事熱心な新・移民たちは評判も上々だった。

 しかし、金融危機以降に成立した2010年の保守党・自由民主党新政権は厳しい財政緊縮策を敷いた。公共費が大幅削減され、地方自治体が提供するサービスの一部もカットされた。EU市民については制限を付けない移民策の結果、病院、役所、学校のサービスを受けにくくなった。

 政府統計によれば、人口約6000万人のイギリスで、2014年時点、300万人のEU市民が在住。その中の200万人が2004年以降にやってきた人である。特にイギリス南部、そしてロンドンが最も多い。

「無制限にやってくるEU市民をどうにかしてほしい」──生活上の不便さから、そんなことを言う人がイギリス各地で増えてきた。

 しかし、人、モノ、サービスの自由な移動を原則とするEUに入っている限り、域内の市民の移動を阻止できない。また、一種の人種差別的発言とも受け取られるから、政治的に絶対にといっていいほど、認められない。

 だから、既存の政党はこんな市民の声をくみ上げられずに何年もが過ぎた。

 ずばり、「EUを脱退するべきだ」と主張してきたのが英国独立党(UKIP)。数年前までは「頭がおかしい人が支持する政党」だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は小幅続落、ファーストリテが320円押し下

ビジネス

英GDP、5月は前月比-0.1% 予想外に2カ月連

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上

ビジネス

良品計画、8月31日の株主に1対2の株式分割
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中