最新記事

銀行

セブン銀ATM不正引き出し事件、利便性と防犯のバランス板挟み

2016年6月2日(木)11時16分

6月1日、セブン銀行の現金自動預払機(ATM)で発生した偽造カードによる巨額の不正引き出しは、メガバンクを含めた国内金融機関に大きな「悩み」を投げかけている。写真は都内で4月撮影(2016年 ロイター/Yuya Shino)

 セブン銀行<8410.T>の現金自動預払機(ATM)で発生した偽造カードによる巨額の不正引き出しは、メガバンクを含めた国内金融機関に大きな「悩み」を投げかけている。犯罪防止の決め手が見つからない中で、一部の金融機関は引き出し限度額の引き下げを検討しているが、外国人観光客増という政府の成長戦略に沿って、海外カード受け入れのATM増設を計画していた金融機関は「顧客利便」と「犯罪防止」の狭間で難しい対応を求められている。

海外カード対応、セブン銀・ゆうちょ銀が先行

 海外からの観光客が、日本に来てもクレジットカードで現金を引き出せるようにするため、政府は2015年の成長戦略に海外発行のクレジットカードでの現金引き出しが可能なATMの普及促進を明記。これに伴い、各行は準備を進めてきた。

 最も対応が進んできたのが、セブン銀とゆうちょ銀行<7182.T>で、セブン銀の約2万2000台、ゆうちょ銀の約2万7000台のATMで海外カードが利用できる。

 セブン銀は、日本各地の観光地に営業基盤を持つ地方銀行と協力し、海外カードに対応するATMを設置してきた。1月には海外のクルーズ船が寄港する長崎港、5月に長崎市の商業施設に十八銀行<8396.T>と共同で海外発行カード対応のATMを置いた。十八銀が設置場所を選定、セブン銀がATMの保守管理を担う。

 セブン銀ATMでの海外発行カード利用件数は、2015年に前年比63.0%増の585万件となり、過去最高を更新。ニーズの高さをうかがわせた。

 メガバンクも、海外カード対応のATMを設置し始めている。みずほ銀行は現在、Visa、MasterCard対応のATMを34台設置済み。今年度中に100台程度、2020年までに1000台規模まで増設する方針だ。

 三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行は現状、Visa、MasterCard対応のATMを設置していないが、各行それぞれ来年度末までに1000台を目標に設置する計画を掲げる。

顧客利便か犯罪抑止か

 こうした動きに「冷水」を浴びせるかたちになったのが、偽造カードによるセブン銀ATMからの不正引き出し事件だ。

 複数の銀行関係者によると、現状では正しい情報が記録された偽造カードを認知して現金の払い出しを止めることは難しく、引き出し限度額の引き下げで対抗している。

 セブン銀は5月27日、海外発行のカードによる引き出し限度額を1回あたり10万円(中国銀聯カードは20万円)から5万円に引き下げると発表した。同銀はセキュリティ強化の観点からATMをICカード対応に変更済みだが、今回の引き出し限度額の引き下げ決定は、顧客の利便性よりも犯罪抑止を優先させたかたちだ。

 ゆうちょ銀は2015年1月、偽造カード対策として1回あたりの引き出し限度額を20万円から10万円に引き下げたが、今回のセブン銀での事件を受け、限度額のさらなる引き下げを検討している。同銀の広報担当者は「偽造カード対策は絶えず行っている」と述べた。

 セブン銀ATMでの不正引き出し事件後も、みずほ銀や三井住友銀は、海外カード対応ATMの設置台数計画を変更しない方針。三菱東京UFJ銀は台数の計画は変更しないが、引き出し限度額を引き下げることなどについて検討を始めた。

 ある銀行の関係者は「外国人観光客のために利便性を高めれば、犯罪被害に遭うリスクが高まる。犯罪を防ごうとして引き出し限度額を下げれば利便性が落ちてしまう」と話す。「偽造カード対策に正解はなく、絶えず対策を打っていくしかない」(メガバンク関係者)とされるなかで、利便性と犯罪抑止をいかに両立させるか、難しい対応を迫られている。

 (和田崇彦 編集:田巻一彦)

[ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2016トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏の核施設破壊発言、「レッドライン越え」=

ビジネス

NY外為市場=ドルまちまち、対円では24年12月以

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23

ワールド

日本と関税巡り「率直かつ建設的」に協議=米財務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中