最新記事

アメリカ経済

あのトランプとクリントンも一致、米国でインフラ投資に追い風

2016年5月20日(金)16時05分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

水道水の鉛汚染が問題になったオハイオ州フリントで水を飲んで見せるオバマ Carlos Barria-REUTERS

 トランプとクリントンの対決が確定的となったアメリカの大統領選挙。厳しい意見の対立が予想される二人だが、インフラ投資の重要性では見解が一致する。その背景には、一層のインフラ投資が求められるアメリカの事情がある。

劣化する公共インフラ

 予備選挙が終盤を迎えた米国で、インフラ投資の重要性を示す象徴的な出来事があった。5月4日に行われた、オバマ大統領のオハイオ州訪問である。それは、共和党の予備選挙からクルーズが撤退を表明、トランプの候補指名獲得が決定的となった翌日のことだった。オハイオは大統領選挙でカギを握る大事な州だが、オバマ大統領の狙いは遊説ではない。水道水の鉛汚染で非常事態宣言が出されているフリント市の視察である。オバマ大統領は連邦政府が全力で事態に対処すると約束し、報道陣の前で濾過された水道水が入ったコップに口をつけるパフォーマンスまで行ってみせた。

 フリント市の水道水汚染は、鉛を使った水道管が原因のひとつだ。鉛を使った水道管の使用は30年前から禁止されているが、それよりも前に敷設された多くの水道管が、いまだに全米各地で使われている。水道水の汚染は今回が初めてではなく、2001年には首都ワシントンで大規模な鉛汚染が発覚したことがある。

【参考記事】非常事態宣言まで出たフリント市の水道汚染は「構造的人災」

 水道に限らず、米国ではインフラの劣化が問題視されて久しい。主要道路の3割は状態が良好ではなく、3割以上の橋が設計寿命を超えている。ワシントンでは地下鉄の老朽化が進んでおり、整備のために数か月にわたって運行停止とすることが真剣に議論されている有様だ。

【参考記事】日本より怖いアメリカのインフラ危機
【参考記事】ニューヨークは壊れている

インフラ通を自称するトランプ

 その米国で、積年の課題であるインフラの立て直しに、追い風が吹いている。「小さな政府」を好み、公共投資に消極的だった共和党が、インフラ投資の推進を主張するトランプを大統領候補に選ぼうとしているからだ。

 インフラの劣化に拍車をかけてきたのは、公共投資の伸び悩みである。連邦政府によるインフラ関連の公共投資は、2002年から2014年の間に2割程度減少している(図1)。フリント市でオバマ大統領は、「何があろうとも『政府は小さいほど良い』とする態度」が、鉛汚染の悲劇をもたらしたと指摘し、歳出拡大に反対してきた共和党を批判している。

chart1.jpg
 共和党から大統領選挙に出馬しているにもかかわらず、トランプは小さな政府へのこだわりが少ない。むしろ、不動産業界での経歴からか、「これまで大統領選に出馬した誰よりも、インフラ投資のことを理解している」と豪語し、ことあるごとにインフラ投資の重要性を強調している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談 「多くの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中