最新記事

アメリカ経済

あのトランプとクリントンも一致、米国でインフラ投資に追い風

2016年5月20日(金)16時05分
安井明彦(みずほ総合研究所欧米調査部長)

 民主党の候補指名獲得が濃厚なクリントンも、インフラ投資の促進を主張する。クリントンは、高速道路、水道、公共交通機関など、さまざまな分野に3,000億ドル近い投資を行うと公約している。

財政赤字の拡大が容認される可能性も

 注目されるのは、財政赤字の拡大を容認するかどうかだ。財政赤字を拡大させずにインフラ投資を進めるのであれば、投資拡大に見合った財源が必要になる。法人税やガソリン税の増税が有力候補だが、財源確保に難航するようだと、実現できるインフラ投資の規模は小さくなる。

 財政赤字の拡大を容認する機運はある。オバマ政権で経済担当大統領補佐官を務めていたハーバード大学のサマーズ教授は、世界的な需要不足により、長期的に成長率が低迷する可能性を指摘する。その有力な打開策は財政赤字を増やして需要を創出することであり、なかでもインフラ投資は有効な手法だとみなされている。

 財政政策の活用は、米国経済にとどまらず、世界経済の成長を後押しする手段としても注目されている。5月26日から開催される伊勢志摩サミットでは、財政出動による内需の拡大が、重要な論点のひとつとなっている。

 財政再建の切迫感が薄れていることも無視できない。米国の財政赤字は、すでに歴史的な平均を下回る水準にまで縮小している(図2)。オバマ政権下では金融危機への対応で膨らんだ財政赤字の縮小が大きな課題だったが、選挙後の新政権では財政赤字の緩やかな拡大を容認される可能性がある。

chart2.jpg

 国政、財政の追い風だけで、インフラの再建が可能になるわけではない。例えば資金面では、いくら連邦政府が財政赤字の拡大を容認するといっても、それだけでは不十分だろう。クリントンはインフラ投資に3000億ドルを用意するというが、安全な飲料水を確保するための投資だけで、4000億ドル近くが必要になるとの試算もある。実際の投資プロジェクトを運営する州・地方政府と協力し、民間の資金を呼び込むような取り組みが必要となる。

 とはいえ、連邦政府が積極姿勢に転じることは、インフラ再建の最初の一歩になる。トランプ旋風による混乱ばかりが心配される米国の今後だが、少なくともインフラ投資に関しては、悪いニュースばかりではなさそうだ。

yasui-profile.jpg安井明彦
1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、2014年より現職。政策・政治を中心に、一貫して米国を担当。著書に『アメリカ選択肢なき選択』などがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独ポルシェ、傘下セルフォースでのバッテリー製造計画

ビジネス

米テスラ、自動運転死傷事故で6000万ドルの和解案

ビジネス

企業向けサービス価格7月は+2.9%に減速 24年

ワールド

豪首相、イラン大使の国外追放発表 反ユダヤ主義事件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 2
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」の正体...医師が回答した「人獣共通感染症」とは
  • 3
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密着させ...」 女性客が投稿した写真に批判殺到
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 7
    アメリカの農地に「中国のソーラーパネルは要らない…
  • 8
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 6
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 7
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 8
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 9
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 10
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中