最新記事

在日外国人

同胞の部屋探しを助ける中国出身の不動産会社社長(前編)

2016年4月19日(火)17時15分

 来日当時、住んでいたのは学校の寮だったが、ある日突然、寮が閉鎖されてしまい、荷物を背負って住みかを探すほかなかった。だが、日本語のできない外国人が部屋を借りるのは、きわめて難しい。公園のベンチで寝ようと準備までしたのだが、幸いある友人が私を引き取ってくれたのだった。のちに妻が(当時はまだガールフレンドだったが)中国から来日し、私はようやく家賃3万円、8畳一間の古いアパートに引っ越した。バスルームもエアコンもなく、夏の暑い盛りには室内温度は30度以上に達し、妻の顔には水ぶくれができてしまった。本当に耐えられなくなり、思い切ってエアコンを買った。

 いま振り返ってみれば、中国での恵まれた条件をほうり出し、キッパリ出国して奮闘してきたことは少しも後悔していない。これもまた、運命がそうさせたと信じている。もし中国に残っていたら今ごろふつうの役人になり、汚職をせずとも他の役人と同じ流れになっていたろう。だがそのような生活は、決して私が求めるものではなかったのだと思う。

不動産業を選んだのは偶然だった

 日本語学校を卒業後、千葉大学大学院に進学し、2年後に修士号を取得した。引き続き博士課程に進みたかったが、指導教官が「見たところ君は学問をやるタイプではない。友人の会社を紹介するから、いっそのこと就職してはどうか」という。それで教官が薦めたその貿易会社に入社した。

 しばらくしないうちに独立し、絨毯のビジネスを一時期手がけた。のちに取り組んだ不動産業も、ある種の偶然からだった。当時、絨毯ビジネスがうまくいかず、そのほかのこともわからない。それで、どうせなら何か勉強しよう、資格でも取ろうと思った。妻は以前、不動産会社で働いたことがあり、仕事上の必要から不動産業のライセンスを取っていた。

 君が持っているなら僕もなければと、不動産関係の本を何冊か買ってきて、勉強をはじめた。それから本当に合格するとは思わなかったが、ちょっと試してみようと資格試験を受けたところ、1カ月後に合格通知が届いた。こうして私たちは2人とも不動産業のライセンスを持つことになり、筋道に沿って順調に不動産ビジネスをはじめたのだった。

 もちろんこの選択は日本に来たばかりのころ、アパートを探して苦労した経験とも無関係ではない。当時日本語ができなかった私は、アパートを探してあちこちで行き詰まった。そして2つの考えをめぐらせた。第1に、どうしてこんなに部屋を借りるのが難しいのか。第2に、日本でマイホームを持ちたい、ということである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザでの戦闘で兵士7人死亡=イスラエル軍

ビジネス

米スピリット航空、ジェットブルーとユナイテッドの提

ビジネス

ウーバーとウェイモ、米アトランタで自動運転タクシー

ワールド

AIIBは越境事業に投資強化を、中国が要請 世界的
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 4
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 9
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 10
    イスラエル・イラン紛争はロシアの影響力凋落の第一…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中