最新記事

東南アジア

ミャンマー新政権も「人権」は期待薄

2016年4月12日(火)17時40分
エマニュエル・ストークス

 そんな危機がかすむような出来事もあった。アウン・サン・スー・チー率いる国民民主連盟(NLD)の総選挙での勝利と、彼女の側近だったティン・チョーの大統領就任だ。一連の動きにより、ミャンマーは民主化に向けてさらに前進しているという見方が出てきた。

 期待が高まる一方で、改革の先行きには限界もある。例えば、新政権には軍の権力乱用を阻止する権限がほとんどない。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルの報告によれば、新政権は不当に拘束された政治犯の一部に恩赦を与えることはできるかもしれないが、政治犯が釈放されては再逮捕されるという状況に歯止めをかけられない可能性がある。

 政治犯の再逮捕を阻止する上で、NLDが直面する大きな関門が憲法の規定だ。前軍事政権が作成し、08年の国民投票(不正操作があった)で承認された憲法は、内務省が管轄している警察などの主要機関について、軍の支配権をはっきりと認めている。

 そのためNLD政権は、どの抗議行動を当局が「承認」するかという点に発言権を持っていない。警察が「望ましくない」と見なす抗議行動に携わった者は誰であれ、政府が反対したとしても国家当局に逮捕される可能性がある。

 さらに、治安当局が「安全上の脅威」と見なせば、一部の政治犯の釈放が阻止される可能性もある。

【参考記事】問題だらけのミャンマー総選挙

 アムネスティ・インターナショナルのローラ・ヘイグは、ミャンマーの内務省とその支配下にある治安当局について「軍が最終的な支配権を握っているという状況は、極めて懸念される」と語った。「政治的な逮捕と収監を終わらせるために、新政権がどこまでやれるのかも不透明だ」

軍に切り札が多過ぎる

 NLDは活動家の弾圧に利用されている一部の法律について、変更や修正を試みることはできるだろう。しかし、そうすれば政治的対立を引き起こし、軍の術中にはまる危険がある。国家的な危機が起きた場合、軍は国家安全保障会議を通じて一時的に民主的統治を中断できるという規定があるからだ。

 軍がこれほど多くの切り札を持ち、議会が対抗できない構造が続く限り、政治犯の逮捕は今後も続く可能性が高い。法改正を試みたり、軍による権力乱用を阻止しようとするNLDの取り組みは、外部の強い支援がなければ成功しないだろう。

 こうした状況を受けて人権団体は、諸外国がミャンマーの人権状況の悪化を認識し、圧力を強めるべきだと主張している。「国際社会はミャンマーの人権状況を『サクセスストーリー』と持ち上げるのをやめるべきだ。実際にはここ数年で、弾圧は著しく増えている」と、ヘイグは指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、8月8日までのウクライナ和平合意望む 

ワールド

米、パレスチナ自治政府高官らに制裁 ビザ発給制限へ

ワールド

キーウ空爆で12人死亡、135人負傷 子どもの負傷

ビジネス

米PCE価格、6月前年比+2.6%に加速 関税影響
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中