最新記事

BOOKS

中高年男性がキレる理由がわかった!(けれども......)

2016年4月5日(火)19時30分
印南敦史(作家、書評家)

 多くの方が実感できるだろうが、20~30代はまだまだ未熟な段階だ。社会に出て自分の立場を築くことに精いっぱいだから、与えられた枠組みのなかで最善を尽くし、少しずつ自信をつけ、積み木を重ねていくようにして地位を築いていくということ。

【参考記事】倹約家も浪費家も「老後破算」の恐れあり

 だが中年期に入ると、自分を取り囲む環境やライフスタイル、家族との関係、ひいては自分が積み上げてきたものの価値などに対する疑問が生じてくる。しかもそんな内面の変化に輪をかけるかのように、働き方そのものが大きく変わってきた。いうまでもなく、努力主義から成果主義への移行である。


 これまでは成果を競うということを意識することなく、とにかく頑張っていればそれなりに評価してもらえた。だれのどんな行動がどんな成果を生んだというようなことを意識しないで、とになくみんなで頑張っていこうといった感じでやっていれば、みんながそれなりに評価された。
 それが、いくら頑張っても成果を出さないと評価されないシステムに変わってきた。当然、だれが成果を出したのかが問われる(81ページより)

 そして、そこに輪をかける要因として著者が引き合いに出しているのが、IT化による技術革新だ。デジタル機器に慣れない中高年が、それらを難なく使いこなす若い世代から蔑まれ、時代に取り残される不安感に強く脅かされているということだ。

 テクノロジーに乗り遅れた大人と聞いて思い出すのは、「IT革命」という流行語を「イット革命」と読んで嘲笑を買った森喜朗だが、とはいえあれは15年以上も前の話だ。あのころすでに「パソコンを使えない中高年」は問題視されていたと記憶するから、決して目新しい話ではない。しかし、そうはいっても、まだまだ適応できない中高年が少なくないことも事実。だとすれば、それも少なからず「キレる一因」になっているのかもしれない。

 いずれにしても、職場においても家庭においても中高年の居場所がなくなり、影響力や存在感も希薄になっていると考えるべきなのだろうか。その結果として彼らは、著者の言葉を借りるなら「自分の価値観・正義感は棚上げし、理不尽な叱責にもヘコヘコ頭を下げるなど」、屈辱に耐えながら生きているということなのだろう。


 そんなときも、ここでキレたら子どもが進学できなくなる、家族の生活が成り立たなくなると思い、歯を食いしばって我慢してきた。(中略)それなのに政府は、一億総活躍社会などとバカげたことを言い出す。(157ページより)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中