最新記事

日本経済

日本をデフレから救うのは資本主義のモデルチェンジ

過剰生産で物価が下押しされる先進国経済で目指すべきはインフレ率より成長率だ

2016年3月1日(火)17時30分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

変化の時 金融頼みはもう限界(国会で答弁する黒田東彦日銀総裁) REUTERS-Toru Hanai

 年頭からの世界経済大荒れは、まだ鎮まらない。そこらじゅうにクレバスが口を開けている。「物価が上がるという期待感をかき立てて企業の投資を増やさせ、経済を持ち上げる」というアベノミクスは、物価を上げることさえできず、デフレの大波をかぶって漂流している。

 産業革命でモノが大量に造られるようになって以来、すべての先進国で過剰生産がデフレを起こすことが多くなった。これからはロボットの本格導入などで生産性がいよいよ高くなると、物価はますます下押しされる。インフレ率2%を至上の目標に置いたアベノミクスに、向かい風は強くなるばかり。本当の目標はインフレ率より成長率の回復にある、という原点を見据え、まず需要や消費をかき立てるべきだろう。

【参考記事】GDPマイナス成長は暖冬のせいではない

 日本は悲観することはない。資本はある。富の基礎であるモノ作りの力もある。問題はカネが回っていない、つまり賃金が増えないため生産やサービスへの需要が増えないことだ。これまでの円安で企業は空前の内部留保を抱える。それでも円高時代の悪夢を忘れず、賃上げという長期の負担を負いたがらない。

 需要が不足していても市場にカネがあるなら、政府が税金で吸い上げて何か役に立つプロジェクトに使って需要をつくり出すのが、1つのやり方。だが今の日本で増税は無理というなら、国債を発行して余剰のカネを吸い上げ、それで需要を創出すればいい。税金と違って国債は、カネの所有権は市場のほうに残り、しかも利子までもらえる結構な代物だ。

 国債発行が無限に増えて、利払いで予算が破綻することはない。1%強程度の成長を確保するのに必要な政府支出を確保できれば十分だからだ。それに今のように日銀が国債の多くを保有しているなら、政府が日銀に利子を払っても、それはまた国庫に戻ってくる。

計画経済なき「社会主義」

 需要創出と言ってもやみくもにカネを配るのでなく、できるだけ多くの人に生活水準向上効果と収入が行き渡る波及効果があるほうがいい。生活水準向上に役立つのは、住環境の一層の改善(高度成長期の乱開発の跡を区画整理するなど)。波及効果が高いのは、家事・介護・対話ロボットなど新たな高収益の技術、あるいは個人の遺伝子解析など高収益のサービスへの支出補助だろう。

【参考記事】「エンゲル係数急上昇!」が示す日本経済の意外な弱点

 全国にこれまで造ったインフラは維持・修理だけで年4兆円を要するといわれる。また介護のように収益性は低くても不可欠な部門には資金を流して職員の待遇を改善し、それによってカネを回し需要を創出するべきだ。

 資本主義はモデルチェンジの時代にある。自動運転の無人タクシーをいつでも呼べることにすれば、自家用車の数は減るだろう。「所有よりシェアやレンタル」で済ます部分が増えてくる。今、世界からは紙幣が消えてデジタルでの支払いですべてが行われようとしている。そうなると当局はネット空間の取引を管理・誘導することで金融政策を実施するようになるだろう。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米ウ代表団、今週会合 和平の枠組み取りまとめ=ゼレ

ビジネス

ECB、利下げ巡る議論は時期尚早=ラトビア中銀総裁

ワールド

香港大規模火災の死者83人に、鎮火は28日夜の見通

ワールド

プーチン氏、和平案「合意の基礎に」 ウ軍撤退なけれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中