最新記事

中東

シリア内戦終結を目指す地雷だらけの和平協議

2年ぶり3度目の和平協議だが、ロシアの思惑や反体制派の反発で成果は期待薄

2016年2月4日(木)17時00分
リディア・トムキウ

大国の思惑も シリアの戦乱にまだ終わりは見えない(首都ダマスカス近郊)

 シリア内戦の終結を模索した和平協議が最後にジュネーブで開かれてから既に2年近く。協議はようやく先週に再開されたが、反体制派の主力組織が当初は不参加を表明し、早くも出だしからつまずいた。加えて、テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の台頭やヨーロッパの難民危機、最近のロシアによる内戦介入といった問題に直面するなか、和平協議は難航が予想される。

 国連の特使であるスタッファン・デミストゥラ国連・アラブ連盟合同特別代表は、シリア政府と反体制派勢力、アメリカやロシアなどの関係国を同じ交渉のテーブルに着かせるという最も困難な任務を背負っている。デミストゥラの前に特使となっていたアナン前国連事務総長とアルジェリアのブラヒミ元外相は、それぞれ12年と14年に和平協議の音頭を取ったが失敗に終わった。

 今回の新たな協議でも参加者らが譲歩する可能性は低く、交渉の進展は見込めないだろうと、専門家らは指摘する。

「(デミストゥラが)苦境から抜け出す策を見つけられるとは思わない」と、元駐シリア米大使のロバート・フォードは言う。「この協議がどこかに行き着くと考える人は、分析ではなく希望的観測に基づいていると思う。皆が進展を望むし、シリアで起きていることを考えれば、そう願わざるを得ない。だが現実は厳しい。われわれが相手にしているのは、樽爆弾や化学兵器を使う政府と、譲歩する気がまったくない反体制派だ」

 協議はまず停戦を締結させ、その後で政治的解決を実現させることを目的としている。だが予定されている協議期間6カ月でそれを成し遂げるのは無理だと、専門家らは指摘している。

問われるアメリカの立場

 他国の介入は協議をさらに複雑にした。ロシアが昨年9月末に開始したシリア空爆によって、アサド政権は息を吹き返した。政府軍は反体制派が掌握していた地域を奪還し始めている。

 ロシアは空爆だけではなく、地上でも拠点を拡大しようとしているようだ。ロシア政府がシリア領土内にさらなる軍事基地を造っているという噂は、長期的な介入をもくろんでいる証しだろう。

「(和平が実現して)シリアがどんな政治体制になるにしても、ロシアはアサド政権を構成するシーア派の少数派アラウィ派を長期的に重要な地位に就けようと執拗に駆け引きしてくるだろう」と、ワシントンの戦略国際問題研究所でロシア軍事を専門とするポール・シュワーツは指摘する。

「ロシアの最終目標はシリアにおける影響力を維持すること。政治的な存在感を示すだけでなく、シリア領内に軍事基地も置けるようにするために」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ高大きく懸念せず、インフレ下振れリスク限定的

ワールド

米ミネソタ州議員銃撃、容疑者逮捕 標的リストに知事

ビジネス

再送(11日配信記事)豪カンタス、LCCのジェット

ビジネス

豪当局、証取ASXへの調査拡大 安定運営に懸念
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中