最新記事

韓国

保守化する「反北朝鮮」世代

2016年1月29日(金)17時50分
スティーブン・デニー(韓国政治学者)

 これを受け、当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領は対抗措置を決断。5月24日に行った国民向け談話で、北朝鮮における共同事業「開城工業団地」を除き、南北の交易を中断する「5・24措置」に乗り出した。

北朝鮮は「敵」で「他人」

 緊張に拍車を掛けたのが、同年11月に発生した延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件だ。黄海上の軍事境界線、北方限界線(NLL)近くに位置する韓国領の同島に、朝鮮人民軍が砲弾を発射。民間人2人と韓国軍兵士2人が死亡した。

 北朝鮮側の動機には各種の説があるが、事件の数カ月前に実施された米韓合同軍事演習への反発が要因だった可能性がある。天安沈没事件によって閉じられた南北間のドアは、延坪島砲撃事件の後、鍵まで掛けられた状態になってしまった。

【参考記事】中国は北朝鮮をめぐり、どう動くのか?

 それから5年以上が過ぎた今も、南北関係にほとんど変化はない。そうした現状は、韓国の世論に反映されている。

 高麗大学の李信和(イ・シナ)教授は11年、世論調査に基づく研究書の中で、韓国人の対北朝鮮観が悪化していることを示した。

 李は、05年と10年に行われた世論調査を比較。10年の調査では、北朝鮮は「仲間」「同胞」「隣人」「他人」「敵」のどれだと思うか、選択肢のうち2つを選ぶ設問で、「敵」または「他人」と回答した人の割合がどちらも31.9%に達した。05年の調査と比べて、それぞれ16.6ポイントと13.5ポイント上昇している。

 全体で見れば「仲間」(33.6%)、「隣人」(35.4%)、「同胞」(45.5%)を選択した人のほうが多かった。しかしその割合はそれぞれ、05年当時より11.9ポイント、13.3ポイント、6.6ポイント低下している。

 より最近の世論調査からは、悪化傾向が一過性のものではないことが分かる。昨年1月にアサン政策研究院(ソウル)が発表した報告書によれば、「若者の北朝鮮離れ」は10~14年に行われた「世論調査で繰り返し見られる傾向のうち、おそらく最も重要なもの」だ。

 注目すべきことに、報告書は若年層を安全保障(つまり北朝鮮問題)において「保守派」と位置付け、彼らの「北朝鮮に対する姿勢は30~40代よりはるかに保守的だ」と指摘する。

南北統一に背を向けて

 安全保障分野に限れば、韓国の若者は、最も保守的な世代である60代以上の高齢層と同じ考えを持つ。この2つの世代は外交問題、とりわけ北朝鮮問題に関して現実政治を重視する点で一致している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ

ワールド

米国防長官、「中国の脅威」警告 アジア同盟国に国防

ビジネス

中国5月製造業PMIは49.5、2カ月連続50割れ

ビジネス

アングル:中国のロボタクシー企業、こぞって中東に進
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 6
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 9
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 10
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中