最新記事

政治

テロ後のフランスで最も危険な極右党首ルペン

イスラム過激派の脅威と移民排斥を訴えてきた国民戦線が、ここぞとばかりに党勢を拡大中

2015年11月18日(水)18時04分
ミレン・ギッダ

テロを追い風に 3週間後の選挙では、ルペン(左)率いる極右政党が躍進する見込み Philippe Wojazer- REUTERS

 あれだけの惨事があった今、パリで笑顔を見つけるのは難しい。先週の同時多発テロの現場や、市中心部の共和国広場では、ろうそくや花束を手に集まった人々が人目もはばからず泣いている。

 例外があるとすれば、マリーヌ・ルペン率いるフランスの極右政党「国民戦線」だろう。

 ルペンはこれまでに数えきれないほど、イスラム過激派の脅威について警告し、国境管理の強化を主張してきた。先週末のテロは、ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)につながる過激派が実行したとされ、実行犯の1人は遺体の近くにシリアのパスポートが見つかっている。ルペンにとって都合のいい「証拠」ばかりだ。

 フランスでは3週間後に全国規模の地方議会選が予定されており、そこで国民戦線が歴史的な勝利を収めるのではないかと危惧する声が上がるのも当然だ。

 マリーヌ・ルペンはこれまで、父であり同党の創設者であるジャンマリ・ルペンがつくり上げた党の極右イメージを払拭しようと努めてきた。しかし、テロのわずか数時間後の記者会見では態度が一変。「イスラム・テロの拡大」を非難し、国境の厳重な管理で過激派を壊滅させるべきと訴えた。

 歴史的にユダヤ人が多く住むパリのル・マレ地区でも、国民戦線が今回のテロを機に党勢を増すのではないかと心配する人々がいた。国民戦線は、ジャンマリ・ルペンの時代には、敵意に満ちた反ユダヤ主義で有名だった。

 実際、国民戦線の支持者はお祝いムードだ。退役海軍将校のジャンクロード・フラジュロ(65)は、1974年からの同党支持者。国民戦線こそがフランスを救うと、彼は言う。

「テロ攻撃はフランスにとって大惨事だった」と、フラジュロ。テロリストの出入りを取り締まれないフランス政府も大惨事だという。フラジュロに言わせれば、国民戦線は「解決策もなく、ただそこに居座っているだけ」の現政権とは違う。

複雑な問題に簡単な解決策を提示

 同党支持者は人種差別主義者やイスラム嫌悪主義者ばかりだという批判に対しては、「人種差別主義者はどの党にもたくさんいる」と、フラジュロは反論する。「私はナショナリストで、イスラム過激派のことを心配しているだけだ」

 彼らの主張は、イスラム過激派の市民権を剥奪し出身国に送り返すこと、国境管理も厳しくして過激派予備軍の入国を阻止することだ。

 国民戦線の支持者の要求は、テロ後のオランド大統領の姿勢にも反映されている。ルペンや中道右派のサルコジ前大統領といった政敵からの攻撃をかわすため、同時多発テロを「戦争行為」と強い言葉で非難し、フランスが「(テロとの)戦いを主導する」と宣言した。

 フランス空軍は既に、ISISが首都と称するシリア北部ラッカへの大規模空爆を開始している。

 オランドがテロとの戦いに舵を切る一方で、国民戦線も着々と準備を進めている。世論調査での支持率上昇を追い風に、ルペンは2017年の総選挙で躍進し、大統領選をうかがう構えだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、ガリウムやゲルマニウムの対米輸出禁止措置を停

ワールド

米主要空港で数千便が遅延、欠航増加 政府閉鎖の影響

ビジネス

中国10月PPI下落縮小、CPI上昇に転換 デフレ

ワールド

南アG20サミット、「米政府関係者出席せず」 トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 8
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 9
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中