最新記事

外交

中央アジアを制するのは誰か、安倍歴訪の語られざる真意

2015年10月29日(木)17時45分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

 一方、中国がやっていることは、一昔前の日本の「小切手外交」にも似て、経済不振に陥ると「金の切れ目が縁の切れ目」になりかねない。ユーラシア横断鉄道建設構想のような大風呂敷も、中央アジア諸国間の不和などで、一向に進まない。

 現代の中央アジアはユーラシアの心臓部ではないし、日本の死命を制するところでもない。それでもロシアの下腹、中国の裏庭に相当する位置にあり、そこに大きな独立勢力があると、日本にとって大事な相手になる。

 中央アジア諸国の独立以来、日本はこれまでに4000億円強のODA(政府開発援助)を供与し(多くは借款)、インフラを造り、日本語教育も奨励してきた。日本人が歴代総裁を務めるアジア開発銀行(ADB)も日本を上回るほどのインフラ融資をしてきた。

 今回、安倍首相が中央アジアを訪れたのは、中央アジア諸国の発展を助け、独立性をますます強化し、ASEAN(東南アジア諸国連合)のような緩い結合体として大国にも物申せる手助けをする、ということだろう。独立国家である中央アジア諸国がいずれの大国にも依存し過ぎないように、日本はオプションを提供するというわけだ。

 日本は中ロにむきになって対抗する必要はない。中国のAIIBやシルクロード基金と日本の国際協力機構(JICA)が協調融資することもあるだろう。実際、日本のODAでロシア製トラクターを購入して中央アジアに供与したこともある。ロシア製品は安くて頑丈だし、中央アジア諸国の農民が使い慣れ、修理体制があるからだ。 

 中央アジア諸国の独立性と一体性を促進する。それは中央アジア諸国自身の利益、そしてそのまま日本の利益。両者の利益は一致している。

[2015年10月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中