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日本が迫られる「戦後」の克服

2015年8月10日(月)12時00分
横田 孝(本誌編集長)

 にもかかわらず、日本で安全保障の論議が起きると、「戦前に逆戻りする」「軍靴の足音が聞こえる」「赤紙で徴兵される時代がまた来る」などと、20世紀前半の軍国主義が復活するかのようなとっぴな言説が飛び交う。21世紀の民主主義や国際情勢、戦争の戦われ方などを無視した、論理の飛躍だ。この70年間日本が真摯に積み上げて来た平和主義に対する侮辱でさえある。

 このままでいいのだろうか。過去に縛られるあまり、現在置かれている状況を見失い、未来を見通すことができていないのだとしたら、この国の将来は危うい。そろそろ、「戦後」を克服し、卒業しなければならない。先の大戦に正面から向き合い、総括する必要がある。それは、あの戦争を美化したり歴史修正主義的な主張をしたりすることではない。戦争の教訓は、決して忘れてはならないのは言うまでもない。

70年談話を発表する意義

 そもそも、日本は自分自身であの戦争を総括してこなかった。極東軍事裁判では日本の指導者が事後法で戦争犯罪人として裁かれたが、日本人自らが当時の指導者らの責任を追及したわけではない。責任の所在を自ら明確にすることなく、左派の過度な贖罪意識と、それに反発する右派の極端な主張のせめぎ合いが続いてきた。

 そんななか、終戦記念日を控えて、安倍晋三首相が談話を発表する。安倍談話に対する不信感は根強い。いくら「全体として村山談話を引き継ぐ」と説明しても、安倍は保守的・歴史修正主義者というイメージだけで語られ続け、第二次大戦を美化したり中国や韓国を刺激したりするのでは、と懸念する声が絶えない。

 戦後50年の村山富市首相の談話に携わった河野洋平・元衆院議長は最近、朝日新聞に掲載された対談でこう語った。「安倍談話は何を目指すのかが曖昧で、私には『戦後70年だから』以上の理由が見当たりません。10年ごとの節目にただ出せばいいわけではない」

 視野の狭い発言だ。確かに、10年ごとに時の総理が談話を発表する必要はない。

 だが、2015年は違う。年齢的に戦争経験者や、アジア諸国の被害者が減り続けているだけではない。日本が現在置かれている地政学的な立場や今後の国際情勢を考えると、今のうちに歴史問題というとげを取り除く必要がある。アメリカの相対的な国力は退潮傾向にあり、欧州は共通の未来像を描けず、国連は中東の混乱やエボラ出血熱などの国境をまたいだ危機に対応できず機能不全に陥っている――こうしたなかで、中国が台頭している。

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