最新記事

秘話

戦時下「外国人抑留所」日記

2015年8月10日(月)12時10分
長岡義博(本誌記者)

「昨夜、部長(編注)が友人を連れて来てお楽しみだった。我々にはパンもなく、小さなサツマイモの一かけしかなかったのに、部長たちは今朝猟に行くのに持っていくサンドイッチのため、我々のパンを使ってしまったらしい。彼は毎週のように友人を呼び、彼等の食事は我々の配給から出てくるのだ」(11月1日、英文)

 ただ赤十字の支援品なのか、戦時下の統制経済では不自由だったはずのコーヒーやピーナッツバター、そしてタバコが日記にはよく登場する。

「外事部長からのプレゼントとしてシャツ、下着、靴下が届いたが、後は月曜日に配られるそうだ。お土産は何時でも歓迎。ピーナツバターにも関わらず一日中腹ぺこ。タバコは今日は吸わず」(11月25日、英文)

 イギリス人であるデュアは日本にとっての戦局悪化、つまり連合軍による太平洋での反抗をいいニュースとして受け止める。しかし母親が日本人で日本で生まれ育った彼は、同時に空襲下で逃げまどう日本の庶民に同情もする。

「一時頃B29らしいのが我々の真上を、東京を目指して飛んで行った。紺碧の秋の空。箒で掃いたような巻雲の間を四つの細い白い尾を曳いて堂々と敵の都へ飛んで行く。壮観なるかなB29。大にやれ、B29。然し、然し、罪なき非戦闘員のみは赦し給え」(11月26日、日本語)

「凄いサイレンの音がする。周章狼狽してバケツを持って駆け回る哀れな人々の光景が目に浮かぶ。我々は温かい布団の中で鼾をかいている」(11月30日、日本語)

 飢えに加えて山での薪採取、食糧運搬、農家の手伝いといった作業で弱ったデュアは、足柄山の豊かな自然を眺め、わずかな慰めを覚える。年を越え、寒さとしもやけに悩みながら、強制収容されず横浜市内に住み続ける母と弟エドワードの訪問と差し入れを待つ日々。しかし戦局は坂を転げるように悪化し、ついに母と弟の住む横浜をB29の大編隊が襲う。

「続々とB29が上空を通った。空は曇っては居たが雲が割に高かったのとB29が割に低く飛んでたのでよく見えた。四〇〇機程京浜地方に来たらしい。我々の上を通った機も二三百あったろう。攻撃目標は横浜、川崎だったらしい。横浜方面に物凄い煙が乱雲のように濠々と沖しているのが見えた。あゝ、母とエディはあの下にいるのか。無事でいて呉れればいゝがなあ」(5月29日、日本語)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる

ビジネス

訂正-米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中