最新記事

領土問題

南シナ海の中国を牽制するベトナム豪華クルーズの旅

行く先は何もない島でも、実効支配をアピールし、中国の神経を逆撫ですることに意義がある

2015年6月16日(火)18時29分
パトリック・ウィン

島というより岩 中国とベトナムが奪い合う南沙諸島の岩礁(写真は2010年) Stringer-REUTERS

 南沙諸島(スプラトリー諸島)は殺風景な場所だ。しゃれたリゾートや海辺のバーはもちろん、トイレすらない。

 それでもベトナム政府は、こんな僻地に豪華クルーズ船を送り出し続けている。乗客たちは800ドル払って遠く離れた岩礁の島に赴く。見えるのは、だだっ広い海に点在する退屈な岩だけ。いわば「無」へのクルーズだ。

 ツアーの売りは、旅行ついでに中国の神経を逆撫でできること。主たる顧客は、1)美しい岩礁ときらめく海が好きで、2)近海の支配権を確立しようと画策する中国を嫌うベトナム人だ。

 南シナ海に位置し、ターコイズブルーの海が広がる南沙諸島は、アジアでもっとも熾烈な縄張り争いの舞台になっている。

 中国は、南シナ海の全域が事実上自分たちのものだと主張する。ベトナムやフィリピンなどの5カ国も、対抗して近海の領有権を主張している。互いに譲れない。海底には莫大な資源が眠り、海上交通路としても重要だ。国家のプライドもかかっている。

領有権を既成事実化する定住も無理だから

 とはいえ、これらの島々に人が定住するのはとても無理。中国が領有権を主張するなかで最大の島でも、大きさはセントラルパークの半分ほど。満潮になると、海に飲み込まれてしまう島もある。

 だからこそベトナム政府は、実効支配のしるしとして、観光客を乗せた豪華クルーズ船でぐるぐると島々を巡っているわけだ。

 もっとも、最初にクルーズ船を使ったのはベトナムではない。中国は2013年から、南シナ海の西沙諸島にある永興島に行く旅行チケットを1,000ドル以上で販売してきた。永興島にはある中国の小さな前哨基地を見学に行く片道15時間の船旅だ。ただし永興島には観光客が滞在できるような施設はなく、船中で夜を明かす。

 だが、南シナ海のちっぽけな島々は少しずつ大きくなっている。中国が海を埋め立てて大きくしているからだ。ベトナムも、規模は小さいながら同じことをやっている。

 南沙諸島もいつの日か、リゾート開発にふさわしい土地になるかもしれない。だが現在のところは中国もベトナムも、軍用滑走路や塹壕、砲座などを築くのに大忙しだ。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ファーストリテ、初任給37万円に12%引き上げ 優

ビジネス

対中直接投資、1─11月は前年比7.5%減 11月

ビジネス

世界のユーロ建て債発行、今年は20%増 過去最高=

ビジネス

デジタルユーロ、EU理事会がオンライン・オフライン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中