最新記事

ジェノサイド

国際法廷では裁けないISISの残虐行為

2015年4月16日(木)16時19分
ジョシュア・キーティング

身内をかばう大国の思惑

 だが安保理による付託には常任理事国の賛成が必要となる。おそらくロシアと中国は拒否権を行使するだろう。両国ともISISを支持してはいないが、「人権」の名の下で国家主権が侵害されることは嫌う。11年にリビアをICCに付託した際は両国とも賛成したが、NATO軍による軍事介入とその後の混乱を見せつけられた今、おとなしく賛成するとは思えない。

 またロンドン大学東洋アフリカ研究所のケビン・ジョン・ヘラー教授(国際刑法学)によれば、「国連安保理はICCに対し、ISISの犯罪だけを裁き、他の組織の犯罪には目をつぶるよう求める」ことはできない。ICCの設立条約が、そうした「偏った付託を排除している」からだ。つまり、ある紛争についての付託を受けた場合、ICCはその紛争に関わるすべての犯罪を捜査し、裁くことになる。

 当然、シリアのアサド政権による非道な人権侵害も捜査対象となるが、同政権の後ろ盾となっているロシアはそんな事態を歓迎しないだろう。シリアでは欧米諸国の支援する一部勢力も平気で拉致や拷問を行っているし、ISISと戦うシーア派の武装勢力によるスンニ派住民への報復も伝えられる。ISISほど組織的でも残忍でもないかもしれないが、起訴されれば有罪は必至。身内をかばいたい大国の思惑が交錯する。

 国際法廷がISISにジェノサイドの罪を適用すれば、彼らと戦う勢力への追い風になるだろう。しかし今はまだ司法の出番ではない。ヘラーが言うように、「まずは幹部を捕まえること。起訴はその先」だ。

© 2015, Slate

[2015年4月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ウォーシュ氏のFRB資産圧縮論、利下げ志向と両立せ

ワールド

米特使、イスラエルでネタニヤフ首相と会談へ=イスラ

ワールド

シンガポール、宇宙機関を設立へ 世界的な投資急増に

ビジネス

英製造業PMI、1月は51.8に上昇 24年8月以
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 3
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 6
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 7
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 8
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 9
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中