最新記事

中東

コバニ奪還で揺らぐ「イスラム国」の支配

国籍を越えて団結したクルド人と「有志連合」の空爆がもたらした大きな勝利

2015年1月28日(水)17時33分
リチャード・ホール

世界が注目 コバニ攻防戦は逐一トルコ側からテレビカメラで捉えられ、世界に報道された Yannis Behrakis-Reuters

 シリア北部の都市コバニへの、イスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)の攻撃は昨年7月、世界のメディアもほとんど気付かないうちに静かに始まった。

 その時点でISISは、イラク北西部の大部分を制圧していた。準備不足で士気の低いイラク軍を敗走させ、多くの重兵器を奪っていた。その後ISISは、東にある首都バグダッドではなく、クルド系住民が暮らすシリア北部のコバニ周辺へと矛先を向けた。

 コバニをめぐる攻防は、シリア内戦で最も注目される戦いとなった。

 戦闘前、コバニに暮らす住民は約4万5000人で、大きな都市ではない。しかしコバニ攻防戦は、ISISに反撃するアメリカの戦略上、象徴的な意味を持ち、そして重要なテストケースだった。

 一度ならず「コバニ陥落」が予測されたにもかかわらず、今週クルド人部隊はISISを街から追い出し、周辺地域にまで後退させたと宣言した。

 なぜ勝利できたのか? 誰にも止められないと思われたISISの侵攻を、これと言って特徴のない街がどうやって阻止したのか?

「陸の孤島」コバニ

 コバニがISISの標的となった理由は、地図を見れば明らかだ。街の規模は小さく、シリア国内の他のクルド地域とは離れている。まるでISIS勢力圏内の「離れ小島」だ。

 街の北側にはすぐにトルコ国境が控えている。街中での爆発や砲弾が発射される際の煙がトルコ側の丘の上からテレビカメラで捉えられた。

 ISISにとってコバニ攻略の戦略的意義は大きい。長大なトルコ国境を掌握すれば、トルコからシリアへの兵士の入国が容易になり、さらにシリア北東部のクルド勢力の反撃を大きく分断することができる。

 ISISはまず街の西部の集落を占領し、9月までには周辺の300の集落と市街地の半分も掌握した。

 状況は厳しかった。数万の避難民が、街道沿いに車を乗り捨ててトルコ国境に押し寄せた。負け知らずのISISに立ち向かったのは、十分な武装もないクルド人の民兵組織、人民防衛隊(YPG)と街に残された住民たちだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル対円で一時9カ月半ぶり高値、高市

ビジネス

米国株式市場=S&P4日続落、割高感を警戒 エヌビ

ワールド

トランプ氏支持率、2期目最低 生活費高やエプスタイ

ワールド

トランプ氏、サウジ皇太子と会談 F35売却と表明 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中