最新記事

中国経済

中国版世銀に参加せずオーストラリアの本音

対中FTA交渉では積極的だが、それ以上中国近づくと米豪関係に傷がつく?

2014年11月28日(金)16時01分
ヘレン・クラーク

使い分け 開発銀行の共同設立では中国と距離を置きたいアボット豪首相 Olivia Harris-Reuters

 オーストラリアは戦略上、この話には乗らないほうが賢明だと判断したらしい.
先月末、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立に参加しない方針を示した。

 AIIBは、アジア諸国に対するインフラ開発資金の援助を目的とする。インドやタイ、マレーシアなど21カ国が設立に合意し、北京に本部を置いて来年中の始動を目指す。当初は意欲を示していたオーストラリアが不参加を決断したのは、明らかにアメリカと日本の圧力を受けてのことだ。

 AIIB構想では、資金援助を通じて中国が支配力を強めることを懸念する声が高まっていた。さらに、アメリカやその同盟国が出資する世界銀行やアジア開発銀行との競合が危惧され、日米はオーストラリアにこれらの機関で従来どおり貢献するよう求めている。

 オーストラリアは近年、対外投資に後ろ向きになっている。昨年も、開発援助を担当してきた独立政府機関のオーストラリア国際開発庁を外務貿易省に統合して独立性を失わせることを発表し、困惑を招いた。そんなオーストラリアが、新たな開発銀行構想に積極的に関与する意思があるとは考えにくい。

 AIIBは期待外れに終わるだろうと、元豪政治家のピーター・リースは米メディアで主張。非効率でお役所的な「銀行というより国連機関のような組織になりそう」だという。

 中国がAIIBによって、債務不履行に陥った国を操り、影響を及ぼすことを懸念する向きもある。アジア諸国に軍事協力を求めたり、中国マネーの流入でソフトパワーを強化したりする狙いもあるかもしれない。

 だが、アフリカから東南アジアに至るまで、中国は諸外国で既に数多くの大型プロジェクトに資金を投じている。今更アジア開発銀行に対抗する新たな機関を設立する必要性に、疑問の声も上がっている。

 オーストラリアが不参加を表明したことは、複雑な対中観を象徴しているようだ。オーストラリアは中国と10年近く自由貿易協定(FTA)交渉を重ね、アボット政権は早期の締結を目指してきた。一方で、貿易以外の分野で中国と密接な関係を結ぶことや、米豪関係を損なうような行動は避けている。

 中国と貿易を強化しても戦略的には深入りしない──それがオーストラリアの本音のようだ。

From thediplomat.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米財務省、中長期債の四半期入札規模を当面据え置き

ビジネス

FRB、バランスシート縮小ペース減速へ 国債月間最

ワールド

米、民間人保護計画ないラファ侵攻支持できず 国務長

ビジネス

クアルコム、4─6月業績見通しが予想超え スマホ市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中