最新記事

シリア

増殖し複雑化し続ける対テロ戦争の敵

アメリカが始めた新しい戦争は、アサド政権に漁夫の利を与えただけかもしれない

2014年10月3日(金)12時38分
ウィリアム・ドブソン(本誌コラムニスト)

複雑怪奇 シリアとヨルダンの国境検問所を守るアルヌスラ戦線の戦闘員 Ammar Khassawneh-Reuters

 アメリカがまた新しい戦争を始めた。今度の敵はイスラム教スンニ派テロ組織ISIS(自称イスラム国、別名ISIL)。開戦第1夜、米軍と有志連合軍による空からの攻撃は3波に及び、シリア国内にあるISISの拠点や訓練施設、物資等の供給路を攻撃した。

 だがアメリカは空爆の初めに、別な相手にも攻撃を加えていた。シリア北部アレッポ郊外の2カ所に、駆逐艦から巡航ミサイルを撃ち込んだのだ。

 標的は「ホラサン・グループ」と呼ばれるテロリスト集団だ。やはりイスラム過激派だが、小規模で知名度も低い。アメリカ政府当局が初めてこの集団に言及したのは、つい1週間ほど前のことだ。

 当局によれば、ホラサン・グループを構成するのは国際テロ組織アルカイダに所属し、アフガニスタンとパキスタンで経験を積んだ戦闘員たち。アルカイダ最高幹部のアイマン・アル・ザワヒリは彼らをシリアに送り込み、新たな戦闘員の調達や訓練、そして戦力の強化を狙っているという。内戦下のシリアは事実上の無政府状態にあるから、こうした武装勢力が活動するには理想的な環境と言える。

 しかも、ホラサンの真の任務はアメリカ本土や欧州諸国に対するテロ攻撃だという。構成員は50人程度だが、イエメンのアルカイダ系組織に属する爆弾作りのプロと合流し、爆弾製造技術を磨いてきたとされる。

 そのホラサンが攻撃を実行する段階に近づいたという情報を、アメリカ政府はつかんだ。だから、急いで拠点をたたく必要が生じたわけだ。

 アメリカはISIS壊滅作戦を強化する一方、「対テロ戦争」の当初の敵アルカイダが生み出した組織にも攻撃を加えたことになる。テロとの戦いはますます多面的になってきた。血みどろの内戦と事実上の無政府状態という不安定な環境(シリアだけでなく、アフリカやアジアの一部にもある)は、イスラム過激派の増殖に最適なのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米感謝祭休暇の航空需要が縮小、政府閉鎖が影響

ワールド

NZ中銀が0.25%利下げ、景気認識改善 緩和終了

ワールド

アングル:ケネディ暗殺文書「押収」の舞台裏、国家情

ワールド

ウクライナ和平で前進、合意に期限はないとトランプ氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    放置されていた、恐竜の「ゲロ」の化石...そこに眠っ…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中