最新記事

漁業

タイの水産業にはびこる奴隷労働と「屑魚」

乱獲の末に地獄と化したタイ漁業。あなたの食卓にのぼるエビや魚油サプリもその産物かもしれない

2014年6月19日(木)15時42分
パトリック・ウィン

過酷な日々 タイの漁港や漁船では多くの不法入国者が無給で働かされている Chaiwat Subprasom-Reuters

 世界最大のエビの輸出国であるタイの水産業界には長年、公然の秘密があった。悲惨な奴隷労働と暴力が横行しているという秘密だ。

 だが最近、タイの漁港や漁船で働く多くの外国人労働者が、無給で過酷な労働に従事させられている実態が白日のもとにさらされつつある。タイの水産業界では、人身売買組織に騙されたり、仕事を求めて不法入国してきたミャンマーやカンボジアの貧しい人々が大勢働いている。彼らは長期間に渡って船上で働かされ、地上に上がることも仕事を辞めることも許されない。タイ人の雇用主に反抗すれば暴行を受け、命を奪われることもある。

 外国人労働者はもちろん、タイ側の関係者でさえ、タイの漁業業界では殺人行為は日常茶飯事だと証言している。「外国人乗組員が全員射殺されるのを見た」と、あるタイ人は言う。「雇用主は賃金を支払いたくないから、全員を並ばせて一人づつ撃っていった」
 
 悲惨な実態が広く報道されたのを受けて、長年見て見ぬふりをしてきたアメリカがついに、タイへの経済制裁に乗り出す可能性が浮上している。

 制裁が科されれば、70億ドル規模のタイの水産業にとっては大打撃だ。アメリカの食卓では、タイ産の安価なエビやフィッシュスティック(細長く切った魚のフライ)の需要が非常に高い。さらに、一見そうとはわからない形で大量に出回っているタイ産海産物もある。「屑魚(トラッシュ・フィッシュ)」だ。

 屑魚とは単一の品種ではなく、2種類の海産物の総称だ。1つは人間の食用に適さない魚、もう1つは成魚に育てば美味だが、十分成長する前に網にかかってしまって売り物にならない魚である。屑魚はすりつぶされ、家畜飼料やペットの餌、魚油や安物の加工食品にされる。

 屑魚と強制労働の関係は明白だ。逃げ出した元奴隷労働者らの証言によれば、彼らはタイ人が所有するトロール漁船や小型船に乗せられ、屑魚を大量に獲るため遠海に運ばれる。東南アジアの海域では乱獲が進み、高値で売れる魚が急激に減りつつある。そこで船長らはやむを得ず、屑魚をたくさん獲ろうと乗組員に過酷な作業を強いるわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、EU議員団の8年ぶり訪中を歓迎 関係安定化に

ワールド

イスラエル、レバノン南部に緩衝地帯設置へ 国防相表

ワールド

ゴールドマン、26年末の金価格予想を5400ドルに

ワールド

独失業率、3月は6.3%で横ばい 失業者数も変わら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 5
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 8
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中