最新記事

サッカー

カタールよ、お前もか! W杯開催の搾取政治

22年大会を目指して建設ラッシュが続いているが、事故多発や労働者搾取のひどさに開催取り消しを求める声も

2013年7月1日(月)17時21分
ポール・エイムズ

期待しすぎた? 22年のW杯開催地に決まった際は市民も大喜びだったが(10年、首都ドーハ) Fadi Al-Assaad-Reuters

 フランス人サッカー選手ザヒール・ベルーニスが、カタールのチーム「アル・ジャイシュ・ドーハ」と契約を結んだのは2010年のこと。この契約で、彼のキャリアの行く先には高額報酬と明るい未来が待っているように見えた。

 しかし、カタールで彼が直面したのは苦い現実だった。もう2年近く給料をもらえず、プレーもできない状態が続いている。「俺のキャリアは終わりだ。一銭も残っていない。最悪だ」とベルーニスは言う。チームの許可がないため、カタールから出国することさえできない。

 ベルーニスのケースは、カタールの外国人労働者が置かれる残酷な待遇の一例にすぎない。

 22年ワールドカップ(W杯)の開催国カタールでは最新式スタジアム12カ所、ホテルの新増築(約9万室)、鉄道網などのインフラ整備として、1500億ドル規模の建設プロジェクトが開始される。この建設ブームを狙い、新たに約100万人の外国人労働者が入国する見込みだ。

湾岸諸国ならではの不条理な制度

 しかし国際労働組合総連合(ITUC)は、カタールの建設現場のずさんな安全管理による事故多発や外国人労働者の搾取を問題視し、W杯の開催地として不適格だと警告。FIFA(国際サッカー連盟)に対して、開催国決定の投票やり直しまで求めている。

 ITUCが特に厳しく批判するのは、裕福な湾岸諸国に特有の「カファラ」と呼ばれる契約制度だ。この制度の下では、外国人労働者は雇用主の許可なしには転職も出国もできない。

 ベルーニスもこの制度の犠牲者だ。彼は10年にアル・ジャイシュと5年契約を結び、キャプテンとして1部リーグへの昇格に貢献した。だが次のシーズンには2部リーグの別のチームへのレンタル移籍を命じられた。彼はアル・ジャイシュから年俸は同額を約束すると言われ、渋々ながら移籍に応じた。

 ところが移籍後、給料は支払われず、ベルーニスは訴訟を起こすことに。彼は現在、どちらのチームでもプレーできず、妻と幼い子供2人を養っていくことができない状態だ。カファラ制度のせいでフランスに帰国することもできない。 

 カタールは小国ではあるが、オイルマネーを背景に世界での影響力の増大を図っており、サッカーはその手段の1つだ。スペインのFCバルセロナは、約2億ドルのスポンサーシップ契約を受けて、ユニホームに「カタール財団」の名を記している。

FIFAへの賄賂疑惑も浮上

 フランスのパリ・サンジェルマンFCは昨年、カタール投資庁の子会社を単独オーナーに迎えて世界一の金持ちクラブになり、デービッド・ベッカムやズラタン・イブラヒモビッチなどのスター選手と契約を結んだ。

 カタール政府は多額のカネを使って、ライバルのアメリカ、日本、韓国、オーストラリアを蹴落とし、W杯ホスト国の地位を勝ち取った。意外な投票結果に、FIFAの理事の中にカタールから賄賂を受けた者がいるという疑惑も指摘された。

 カタール当局としては、W杯が開催できなくなるような事態は何としても避けたい。「外国人労働者の待遇は改善の必要があることを認識している」と、カタールW杯実行委員会は取材に対してメールで回答を寄せた。 

 しかしITUCのシャラン・バロウ書記長に言わせれば、何カ月も議論を重ねたが、カタール政府がカファラ制度の廃止などの改革に本気で取り組む様子は見えない。

 ベルーニスはハンガーストライキも辞さない構えだ。ここまで追い詰められている外国人労働者は、おそらく彼一人ではないだろう。

From GlobalPost.com特約

[2013年5月28日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ニデック第三者委「永守氏が一部不正容認」、業績圧力

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、2月1.9%に加速 懸念される

ビジネス

中東紛争でインフレ加速も、世界経済への打撃は軽微=

ワールド

〔アングル〕中東情勢が安保3文書改定に影響も、米軍
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医師が語る心優先の健康法
  • 3
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 6
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    人気の女性インフルエンサー、「直視できない」すご…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    ドバイの空港・ホテルに被害 イランが湾岸諸国に報…
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 9
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 10
    中国で今まで発見されたことがないような恐竜の化石…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中