最新記事

中国

「反中」台湾出身作家vs歌舞伎町案内人<1>

「不可解大国」中国は本心で何を考えているのか? 中国のオモテもウラも知り尽くした2人が日本人の知らない中国の本音と日中の未来について大激論!

2013年4月10日(水)15時50分
構成、本誌・長岡義博

李小牧氏(右)、黄文雄氏(左)   

 世界第2位の経済大国なのに、国民の大半は貧しい農民かせいぜい出稼ぎ労働者のまま。原因が分かっているのに、国民の怒りが渦巻く環境汚染は野放し。こういった国内の矛盾解決に忙しいはずなのに、指導部や軍は領土への関心ばかり――。尖閣諸島の領有権をめぐってもめ始めた2010年以降、日本と中国の対立関係が深まるとともに、日本人から見た中国や中国人の「不可解度」は増している。

 時に世界の常識とはかけ離れた行動を取る中国人は、本心で何を考えているのか。中国という国と日本はどう付き合うべきか。本誌リレーコラム『Tokyo Eye』の執筆者で歌舞伎町案内人の李小牧氏と、台湾出身で日本に半世紀近く暮らす作家の黄文雄氏という中国のオモテとウラを知りつくした2人が、長い歴史と広大な地理をもつ中国と中国人の本音、日中の未来について大激論した。(構成、本誌・長岡義博)

                   *

――まず黄さんにおうかがいしますが、これまでの著書ではかなり辛辣に中国や中国人を批判していますね。

黄:ごく一般的に書いただけですよ(笑)。中国人でもなければ韓国人でもない、台湾という第三の眼で見て日本人と中国人と韓国人はどう違うか、というところを冷静に分析してきたつもりです。

――李さんは歌舞伎町で中国人や日本人はもちろん、韓国人もよく見てきたと思いますが。

李:今年で来日してちょうど25年。まだ黄先生の半分ですが。日本に来て1週間後から歌舞伎町に住み始めました。歌舞伎町には昔から台湾系の人たちが多かった。この町は60年前に台湾人と韓国人、日本人でつくった町です。以前、歌舞伎町の土地の3分の1は台湾人が持っていたんですよ。歌舞伎町に25年住んで、自分のことを中国人でも日本人でもない「歌舞伎町人」だと思ってる(笑)。

黄:中国人は日本が嫌いなはずなのに、帰化する人数も日本人と結婚する人数も、密入国の人数も多いですね。これはどうして?

李:一番近い先進国だ、ということが大きな理由です。生活がしやすく、日本人と結婚すれば差別もない。

黄:「歌舞伎町人」というのは、中国人の中でも突出した考え方では?

李:ほかの中国人でこんなことを言う人はいないです(笑)。歌舞伎町は風俗の町だから、普通は恥ずかしがる。日本人でも白い眼で見る。汚い、ヤクザの町だと。だけど逆に私はそんな街に住んでいることを自慢してきました。考え方でも、日本の批判もするし、中国の批判もする。(来日した)チベットのダライ・ラマ(14世)に会ってコラムも書くし、ウイグルのラビア・カーディルさんにも会いました。

黄:それで中国に帰って大丈夫?

李:一応大丈夫です(笑)。何を書いているかは、中国の国家安全部(編集部注:中国の情報機関)も分かっていると思う。私は上の政治も下の「性事」も、何でも言いたいことを言いますから。

黄:私の姿勢は李さんとはちょっと違う。生まれたのは昭和13年。当時、台湾は日本の領土で、小学1年生まで日本の教育を受けました。終戦当時、学校の校舎は米軍の爆撃で壊れて、テニスコート一面に戦車が並んでそこでよくかくれんぼをした。高校を出て日本に来たわけですが、意識としては「中華民国から逃げたい」という想いが強かった(編集部注:黄氏は内戦で敗れた国民党政府が移る以前から台湾に住んでいた本省人)。当時の台湾人留学生にとって、中国から逃げることが人生最大の幸せでした。

李:それは私も同じ(笑)。

黄:私は日本に帰化したのですが、まだ台湾人意識が自分に残っている。ただ私の息子や娘には台湾人意識はない。母親が日本人のせいかもしれませんが。

李:私が帰化しないのは、もちろん「歌舞伎町人」だからね(笑)。ただ父と母の国である中国を誇りに思っています。社会主義の中国から資本主義の日本と歌舞伎町に来て成功したことも、私にとっては誇り。

黄:李さんは社会主義を信じているの?

李:うちの店(編集部注:新宿・歌舞伎町のレストラン湖南菜館)に毛沢東のでっかいポスターを貼っていますよ。同じ湖南省出身ということもありますけどね、文化大革命でやった悪いことはさておき、同じ男性として尊敬しているので。ヤクザと戦い、警察とも時に戦う私は「歌舞伎町の毛沢東」を自称している(笑)。
 それはあくまで冗談だけど、深圳で暮らしていた時に自分が自由のない国にいることを実感して、それで日本にやって来ました。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア黒海主要港、石油積み込み再開 ウクライナの攻

ビジネス

メルク、インフルエンザ薬開発のシダラを92億ドルで

ワールド

S&P、南ア格付けを約20年ぶり引き上げ 見通し改

ワールド

米国境警備隊、シャーロットの移民摘発 初日に81人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中