最新記事

人権問題

当局の検閲に中国新聞社が猛然抗議

南方週末紙の検閲・改ざん問題が異例の編集者ストや新聞社トップの辞任に発展し、習近平政権の「改革」路線の試金石に

2013年1月10日(木)16時27分
プリヤンカ・ボガニ

報道の自由を 当局の検閲に反旗を翻した南方週末のために集結した支持者たち Bobby Yip-Reuters

 中国広東省のリベラルな地元紙「南方週末」の紙面が当局の検閲で改ざんされた問題をめぐり、波紋が広がっている。北京市が管轄する日刊紙である「新京報」の戴自更(タイ・ツーコン)社長が9日、辞任を表明する事態に発展したのだ。

 上海の英語ニュースサイトによれば、共産党中央宣伝部は国内の新聞各紙に対して、共産党機関紙「環球時報」が掲載した南方週末を批判する社説を転載するよう命令したが、新京報はこれを拒否したという。戴の辞任は党中央宣伝部への抗議を示したものと見られている。

 本誌香港特派員のベンジャミン・カールソンによれば、これは中国のジャーナリストにとっては極めて異例の動きだ。

「これまで編集者と当局の検閲との関係は、危ういバランスの上でかろうじて衝突を避けていた。ここにきて一気にそれが崩れ、国内のジャーナリストを大混乱に陥れるほどの事態になっている」と、カールソンは言う。「注目すべきは、南方週末でも新京報でも、編集者や記者たちが自らのクビを懸けてまでも検閲反対に立ち上がったことだろう」

 今回の騒動は、昨年11月に党総書記に就任したばかりの習近平(シー・チンピン)政権にとっては最初の試練になりそうだ。彼がこの一件にどう対処するかで、政権の今後数年の改革の行方が決まってくると、カールソンは言う。「中国は改革・開放を止めない――そう宣言した習の言葉の意味を見極めようと皆が注視している。これが真実なのか、それとも改革者としての顔は空虚な演出に過ぎないのか、と」

法治を求めた記事を共産党礼賛に改ざん

 香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストによれば、新京報の戴と当局とが激しく議論する場に同席した編集責任者3人は、9日未明に戴がこう言い放つのを聞いたという。「この場で、口頭で、あなたに辞表を出しますよ」

 ただ、戴の辞表が正式に受理されたのかどうかは明らかになっていない。新京報の担当者が、戴の辞任についてはうわさに過ぎず、通常通り勤務していると語ったとの報道もある。

 騒動の発端は4日、新年号で掲載を予定していた南方週末の記事の改ざんが発覚したこと。立憲政治の実現を求めた記事が、当局の検閲によって共産党政権の成果を賞賛する内容に書き換えられていたことが分かった。これに反発した同紙の記者らが、7日からストライキを続けている。
 
 報道の自由に対して比較的リベラルだと言われてきた広東省の当局が、いわゆる「露骨な干渉」を行ったことに、ジャーナリストたちは反発を強めている。

 南方週末の関係者によれば、当局と編集者らは既に合意に達したようだと、米ニューヨーク・タイムズ紙は報じている。「南方週末は明日には通常業務に復帰するし、党中央宣伝部との話し合いも明日開かれる予定だ」と、あるジャーナリストはコメントしている。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電

ワールド

中国、海南島で自由貿易実験開始 中堅国並み1130

ワールド

米主要産油3州、第4四半期の石油・ガス生産量は横ば

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中