最新記事

北朝鮮

金正恩がはしゃぐもう1つの理由

ミサイル実験成功にとどまらない、予想以上に進む核開発の実態

2013年1月25日(金)17時32分
横田孝(本誌編集長)

次の目標へ 長距離弾道ミサイルの発射実験の事実上の成功を祝う金正恩と技術者たち KCNA-Reuters

 先週、事実上の長距離弾道ミサイル発射実験を「誇らしい快勝」と評した北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記。軌道に乗ったとされる「衛星」は制御を失っていると報じられているが、弾道ミサイルの打ち上げ能力とアメリカに対する「抑止力」を高めたことに変わりはない。

 同時に、金正恩の軍部内での求心力も高まった。昨年、金正日(キム・ジョンイル)総書記の死去を受けて最高指導者になった金正恩だが、これまで軍部をどれだけ掌握できているか疑問視されてきた。国際社会からの警告にもかかわらず実験を強行したことによって、金正恩は父親や祖父のように「米帝の敵視政策に立ち向かう指導者」というイメージを確立できた。

 注目すべきは、日米韓の予想を超えた北朝鮮の軍事技術の進歩の速さだろう。今年4月に行った実験は失敗に終わったものの、北朝鮮が短期間で問題点を修正できたことは、各国の国防当局に衝撃をもたらした。

 言うまでもないが、急ピッチで進められているのはミサイル開発だけではない。北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議が08年を最後に開かれていないため最近あまり注目されていないが、核開発計画も着々と進んでいる。

 北朝鮮は08年に寧辺にある核施設の一部を「無能力化」したものの、別の形で核物質を増やそうとしている。09年にはウラン濃縮施設を完成させ、さらに現在2基の軽水炉を建設中だ。国際原子力機関(IAEA)のオリ・ハイノネン前事務次長によると、2〜3年後に稼働する可能性があるという。

 一般的に軽水炉で兵器級の核物質は作りにくいとされるが、不可能ではない。北朝鮮は既に核兵器約6個分のプルトニウムを保有している。2基の軽水炉が完成すれば、早ければ5年後にはさらに毎年核兵器2個分のプルトニウムを作る能力を手にする。

 北朝鮮が着実に技術力を高めていることを考えると、「5年後には核弾頭を弾道ミサイルに搭載する技術を獲得するかもしれない」と、ケネス・キノネス元米国務省北朝鮮分析官は言う。

米政権が探る対話への道

 目下の焦点は国連安全保障理事会でどのような制裁が下されるかだが、北朝鮮に圧力をかければかけるほど、軍部の手前、金正恩は強硬に出ざるを得ない。

 とはいえ、これで対話への道が閉ざされたわけではない。米オバマ政権に近い筋によると、アメリカは朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨収集計画を来年に再提案することを検討しているという。米朝両国がこれまで遺骨収集を対話への足がかりにしてきたことを考えると、ミサイル実験にかかわらず「人道的措置」を口実に交渉のテーブルに戻る可能性はある。

 さらに、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領選の両候補は現政権下で進められた対北強硬姿勢を改めるとしている。何をしようが対話の窓口が完全に閉ざされることはないと踏んで、北朝鮮が実験に踏み切った側面もあるだろう。
世界の怒りを買っても、北朝鮮は何一つ失っていない。金正恩がほくそ笑むのも無理はない。

[2012年12月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米肥満薬開発メッツェラ、ファイザーの100億ドル買

ワールド

米最高裁、「フードスタンプ」全額支給命令を一時差し

ワールド

アングル:国連気候会議30年、地球温暖化対策は道半

ワールド

ポートランド州兵派遣は違法、米連邦地裁が判断 政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216cmの男性」、前の席の女性が取った「まさかの行動」に称賛の声
  • 3
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 6
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 10
    「非人間的な人形」...数十回の整形手術を公表し、「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 9
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 10
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中