最新記事

英政治

辛勝ロンドン市長はイギリスを救えるか

英地方議会選で保守党が惨敗するなかで再選を果たした大物政治家は、「金持ち政党」の汚名をそそげるか

2012年7月5日(木)13時19分
バリー・ニールド

次は首相か キャメロンの後継と目されるジョンソン Stefan Wermuth-Reuters

 ロンドンはイギリスにあらず──ロンドン市民ではないイギリス人はこう考える。今月初めに行われた選挙が何よりの証拠だ。地方では左派が躍進したのに、ロンドンでは右派の現職市長が再選された。

 与党・保守党の現職ボリス・ジョンソンは、市長への返り咲きを狙った労働党のケン・リビングストンに辛勝した。しかし保守党は地方議会選で労働党に惨敗。緊縮財政を敷く政府に対する有権者の厳しい評価と受け止められている。

 市長選は政策よりもキャラクターの勝負だ。まじめな顔で冗談を飛ばすリビングストンよりも、上流階級出身で押しの強いジョンソンのほうが気に入られたらしい(もっとも、ほんのわずかな差だったが)。

 再選されたジョンソンは今年夏に開催されるロンドン五輪の舵取りをすることになる。さらに厳しい予算の下で交通機関を整備し、公営住宅を供給し、昨年夏に起きた暴動の再発を防がなければならない。

 側近によると、新市長の優先事項の1つは、かつて路線バスとして使われていた赤い2階建てバスをよみがえらせることだという。だが既に予算の無駄遣いだと批判の声が上がっている。

 この計画はリビングストンへの挑発だと捉える人も多い。2階建てバスを現在の人気のない連結バスに変えたのは、市長時代のリビングストンだからだ。

 一方、ジョンソンは国政に戻るつもりだという噂を否定した。保守党が厳しい状況にある今、大衆受けするポピュリストタイプのジョンソンはキャメロン首相に代わる将来の首相候補とみられている。

「この街を不況から脱出させ、犯罪を減らし、経済成長、投資、雇用をもたらすと、私はロンドン市民に誓った」と、ジョンソンは語った。「この公約は市長としての立場で全うする」

労働党時代が再来する?

 今回の選挙で、キャメロンが将来を不安視してもおかしくはない。連立を組む保守党と自由民主党が共に大敗し、エドワード・ミリバンド率いる労働党に期待が高まっているからだ。

 裕福で有権者の心が理解できないと党内からも批判されるキャメロンは、地方選の結果を受けて謝罪。公共予算を大幅に削減せざるを得ない「困難な時代」のせいだと語った。

「私たちに求められているのは、前政権から引き継いだ債務、赤字、破綻した経済への対策のために苦渋の決断をすることだ。今後もこうした決断を迫られるだろうし、国のために正しいことをしなければならない」と、キャメロンは言った。

 しかし最近の政府の失態を思えば、キャメロンの言葉はむなしく響くだけだ。政府の不手際でガソリン価格高騰を招いたりテロ容疑者の強制送還を怠ったり、高齢者の税金を引き上げたり......。メディア王ルパート・マードックとの癒着でも非難を浴びている。

「キャメロンはやる気に欠け、牛乳の値段も知らないお坊ちゃんで、国民が困窮しているのを理解せず、リーダーとしての戦略がないと批判されている」と、ベテランの政治評論家マイケル・ホワイトは書いた。「今回の敗北は、ある種の政治サイクルの1つだと軽視されるかもしれない。だが、指導者が国民の信頼を取り戻すのは難しい」

 労働党のミリバンド党首は、今回の勝利は10年以上にわたる労働党政権の間に失った国民の信頼回復に向けた一歩だというだけでなく、経済が回復に向かう兆しでもあると語った。「人々は苦しんでいる。イギリスは今よりも良くなることを、彼らに示さなければならない」

From GlobalPost.com

[2012年5月16日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも

ワールド

トランプ氏、イランに直ちに協議呼びかけ 「戦いに勝
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中