最新記事

中国

「尖閣購入」に中国が激怒しないのは

南シナ海ではフィリピンともっと熱い領有権争いの真っ最中

2012年6月1日(金)17時55分
長岡義博(本紙記者)

一歩も引かず マニラで起きた反中国デモ(4月16日) Romeo Ranoco-Reuters

 領土の保全を自国の「核心的利益」と位置付ける中国。これまで日本と領有権を争う尖閣諸島(中国名・釣魚島)が問題になると、感情的反応を繰り返してきた。10年の漁船衝突事故後も、日本側が島に独自の名前を付けるとすぐさま中国名を付け返した。

 ところが東京都の石原慎太郎知事が16日、ワシントンで「東京都が尖閣諸島を購入する」と突然ぶち上げたにもかかわらず、中国政府の対応は外務省が「日中関係を損なう」といった控えめなコメントを出しただけ。いつもは大騒ぎする中国版ネット右翼「噴青(フェンチン)」も比較的静かだ。

 重慶市で起きた政治スキャンダルが共産党最高指導部を揺るがしていることも、「沈黙」の理由の1つだろう。ただそれだけではない。実は中国は今、もう1つの領土紛争で忙しいのだ。

 4月初め、フィリピンが実効支配する南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)付近で操業していた中国漁船をフィリピン海軍の艦船が捜索し、違法に採取したサンゴやサメを発見。中国人船員を逮捕してフィリピンに戻ろうとしたが、中国政府が派遣した2隻の漁業監視船に妨害され、海上でのにらみ合いが1週間以上続いた。さらにこの間、南シナ海では両国間の緊張を高めるフィリピン軍と米軍の合同演習まで始まった。

 中国は南シナ海で南沙諸島(スプラトリー諸島)、西沙諸島(パラセル諸島)の領有権も争っている。中国が周辺国と領土をめぐる紛争を起こすのは、海洋資源の独占をもくろんでいるためとされる。だが現実にトラブルを起こすのは、水産資源を狙う漁民が多い。中国の領土問題には、豊かになった国民を近海の資源だけでは満足させられなくなったという経済的側面も強い。

 逆風も吹き始めている。国連の国際海洋法裁判所は3月、ビルマ(ミャンマー)とバングラデシュが争っていたベンガル湾の境界線について判決を出した。認められたのはバングラデシュが主張する大陸棚ではなく、ビルマの求める中間線。日本と中国が海底資源を争う東シナ海ガス田問題では日本が両国の中間線を、中国は大陸棚を境界線と主張している。この問題が国際海洋法裁判所に付託されれば、同じ判決が出る可能性もある。

 中国は今までのこわもてな姿勢を改めるべき時なのかもしれない。

[2012年5月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中関税合意、中国内に懐疑的見方 国営メディアが評

ワールド

ハマス、イスラエル系米国人の人質を解放 イスラエル

ビジネス

JPモルガン、中国GDP予想を上方修正 対米関税引

ビジネス

FRB政策対応の必要性低下、米中関税引き下げで=ク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 3
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王子との微笑ましい瞬間が拡散
  • 4
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 7
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 8
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 9
    ロシア艦船用レーダーシステム「ザスロン」に、ウク…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中