最新記事

オリンピック

女性の五輪出場を認めたサウジの思惑

女子には体育の授業さえ受けさせないサウジアラビアで、皇太子がロンドン五輪に女性選手が出場することを認めると電撃発言した理由

2012年3月26日(月)18時08分
クリスティン・ディージー

チャンス到来? 女性の五輪出場が実現すれば、サウジアラビアの女性がスポーツをする機会は拡大するはず Ali Jarekji-Reuters

 サウジアラビアから驚きのニュースが飛び込んできた。今年夏にロンドンで開かれる夏季オリンピックに、女性が出てもかまわない――筋金入りの保守で知られるナエフ・ビン・アブドルアジズ皇太子がそう発言したというのだ。

 女性の権利が制限されるサウジアラビアでは、これまで女性がオリンピックに出場したことは一度もない。出場が実現すれば、同国の女性の権利拡大につながる大きな一歩になるかもしれない。

 アルジェリアのアル・ハヤト紙によれば、ナエフは「女性としての品位を保ちつつ、イスラム法と矛盾しない」形でなら、という条件付きで女性選手の出場を認めたという。さらに、サウジアラビアの女性スポーツ解説者リーマ・アブドラが同国の聖火ランナーの1人に選ばれたと、中東の衛星放送アルアラビーヤは伝えた。

 一方、国際オリンピック委員会(IOC)は、最近行ったサウジアラビア当局者たちとの会談はとても「建設的」だったとしている。「サウジアラビアは女性選手の出場に向けて動いていると確信している」と、公式発表でも述べている。

激しく「動いたり跳ねたり」はご法度

 しかし、楽観的な見方ばかりではない。イギリスに拠点を置く中東専門のニュースサイト、ミドル・イースト・オンラインは、今回のナエフの発言はアラブの春のような抗議運動をかわすための取り組みの一環だと指摘する。「若者に広がる反体制的なムード、そしてスポーツをする機会を求める女性の声の高まりに応えるものだ」

 米人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの研究者で、先ごろサウジアラビアの女性選手への差別に関する報告書を手がけたクリストフ・ウィルケも、厳しい見方を示している。「飾り物の女性を突然引っ張り出して、すべて順調だと言っても通用しない」と、ウィルケはロサンゼルス・タイムズ紙に語った。「いいステップではある。しかしサウジアラビアでは、女性のスポーツ文化そのものを生み出す必要がある」

 サウジアラビアの女性選手がオリンピックの出場基準を満たせるか、疑問視する声もある。同国の公立学校は、女子が体育の授業を受けることさえ認めていないからだ。

 ロイター通信の報道によれば、かつてサウジアラビアの最高宗教学者会議のトップは、若い女性がスポーツで激しく「動いたり跳ねたり」すると処女膜が破れ、処女性が失われると懸念していたという。

 これまでオリンピックに女性選手を送り込んだことがないのは、サウジアラビア、カタール、ブルネイの3カ国だけ。カタールは既に、ロンドン五輪に女性選手が出場することを認めると発表している。実態はどうあれ、サウジアラビアもこれに続かなければ、「中東で唯一女性蔑視を続ける国」のレッテルを貼られかねない――そんな危機感が今回のナエフの発言の背後にはあったのかもしれない。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

26年春闘の要求、昨年より下向きベクトルで臨む選択

ビジネス

仏CPI、10月前年比+0.8%に減速 速報から下

ビジネス

内田日銀副総裁が白血病治療で入院、12月政策会合に

ビジネス

野村HD、英運用会社と提携 プライベート融資ファン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中