最新記事

百科事典

「ブリタニカと知識人」蜜月の終わり

244年の歴史に幕を下ろし、書籍版から電子版に全面移行すると決めたブリタニカだが

2012年3月15日(木)16時38分
マイケル・ゴールドファーブ

時代遅れ? 無料のウィキペディアに対抗しながら高い教養レベルを保てるのか Lucas Jackson-Reuters

 ブリタニカ百科事典全32巻セットが発売されたのは一昨年のこと。その最後の1セットが店頭で売り切れたとき、244年に及ぶブリタニカの歴史に幕が下ろされることになる。

 米エンサイクロペディア・ブリタニカ社は13日、書籍版ブリタニカ百科事典(英語版)の出版を打ち切ると発表した。理由は簡単だ。ネットの普及で、もはや紙の書籍は不要となりつつある――いや、この際だからはっきり言おう。ブリタニカはオンライン百科事典のウィキペディアに敗れたのだ。「ブリタニカ」なる百科事典がなぜシカゴにある同社から発売されることになったのかを調べるとき、たいていの人が使うのはウィキペディア。検索した結果、判明したその歴史はざっとこんな感じだ。

 ブリタニカ百科事典の初版は1768年、スコットランドのエジンバラで発行された。哲学者のアダム・スミスやデービッド・ヒュームといった知識人が主導するスコットランド啓蒙主義が英語圏の知識人の間で大きな権勢を奮っていた頃だ。

 19世紀から20世紀へと時代が移り変わるころ、ブリタニカ百科事典の版権は経営難に落ちいたスコットランドの出版社からアメリカの起業家の手に移った。その後、シカゴの百貨店大手でカタログ通信販売で知られるシアーズ・ローバック社が買収し、1960年代に哲学者モーティマー・アドラーがブリタニカ百科事典15版の編集長に就任。96年、スイスの実業家ヤコブ・サフラが版権を買収した。

デジタル版は生き残れるのか?

 これだけ無料の情報がこれだけ氾濫する世界で、1セット=1395ドル(約11万7000円)という書籍には手を出しにくい。ブリタニカは今後、電子版に全面的に移行する。ホルへ・カウス社長は、ブリタニカ百科事典の重要性についてこう語る。「この百科事典が時代に即して息づいているのは、編集作業を通じて学術的な知識をできるだけ多くの人々の知的欲求に応える形にしているからだ」

 それはネット上ならもっと手早くできる。ネットなら紙を使わないから環境にも優しい。出版社としては、経費の節減や新たな利益開拓にもつなげることができる。

 電子書籍端末キンドルにフルセットをダウンロードして、本当にそれを使いこなす人がどれだけいるかは疑問だが。
 
 
GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日鉄、今期の最終赤字700億円に拡大へ 安価な中国

ビジネス

BNPパリバ、収益性向上へコスト削減強化 第4四半

ワールド

中国の25年金消費、前年比3.57%減、2年連続減

ワールド

金現物2.5%安、銀は15%急落 ドル高や米中摩擦
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 5
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 6
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 10
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中