最新記事

サイエンス

脳科学で解き明かす「性欲」の謎

大規模な調査で人間の性行動の思いがけない実態に迫った衝撃作『性欲の科学―なぜ男は「素人」に興奮し、女は「男同士」に萌えるのか』

2012年2月13日(月)18時48分
ジェシカ・ベネット

 その「実験」が行われたのは、09年の夏のこと。使われたのは皿いっぱいのパスタ、それにエッチな映像だ。

 当時ボストン大学の博士課程だったオギ・オーガスは、自分が住んでいるアパートのロビーで隣人のゲイのカップルに出くわした。知り合いというほどの仲ではないが、頼んでみる価値はあると考えたオーガスは、彼らに自分の研究に協力してくれないかと尋ねた。オーガスの研究とは――セックスについての大規模調査だ。

 そのカップルはちょっとたじろぎながら笑った。それでも、興味を持ってくれたようだ。48時間後には、そのカップルとオーガスの男3人が真っ赤なビニール製のソファに腰掛け、パスタと赤ワインを片手にゲイポルノ鑑賞会に取り掛かっていた。壁にはイタリアのセックスシンボル、女優ソフィア・ローレンの巨大な版画が掛けられている。3人の足元には、カップルが飼っているパグがごろん。3人のゲイポルノ鑑賞は、5時間続いた。

 計算論的神経科学を研究しているオーガスにとって、これは乱交パーティーでもなければ、趣味の時間でもなかった。難解なコンピューター・コードを書くのに忙しい博士課程の仲間と違って、オーガスの研究対象は人間の性的欲求だ。

 一緒に研究に取り組んだのは、同じ大学で機械学習の生物学モデルを研究していた親友サイ・ガダム。2人が特に興味を持っていたのは、人間の脳はどうやって「その気」になるのか、ということだ。

「僕たちの専門分野で、性欲について研究した人はそれまでいなかった。そんな研究をするなんてイカレてるんじゃないかって、仲間には思われていた」とオーガスは言う。「だけど、高度な認知機能と性的行動は、どちらも同じ神経原理で動いているんだ」

アダルト検索ワードの1位は?

 そこで2人は人間の性行動について「世界最大級の研究」を行い、新著『性欲の科学――なぜ男は「素人」に興奮し、女は「男同士」に萌えるのか』(邦訳・阪急コミュニケーションズ)を出版した。

 2人は4億の検索ワーズと数十万の官能小説、4万のアダルトサイトなどを分析し、1億人以上の性行動を突き止めて、人間がどのように性欲をかき立てられるのか(そしてどんな風にしてポルノのネットサーフィンに駆り立てられるのか)、神経科学で解き明かすことに成功した。

 とはいえ、人間の性研究として最も学問的な手法を取ったとはいえないかもしれない。「キンゼイ・レポート」で名高い生物学者のアルフレッド・キンゼイは、性生活について1万8000件以上もの聞き取り調査を実施した。だがオーガスとガダムの研究結果は、読者を楽しませ、驚かせるには十分すぎるほどだ。

 現在、ネット上のポルノにはセックスについて人々が想像できるかぎりのあらゆるシチュエーションがそろっている。だが、アダルト検索の人気ワード、つまり人々の性嗜好というのは意外と平凡な範疇に落ち着いている。全検索ワードの80%を、たった20の人気ワードが占めているのだ。1番人気の検索ワードは何かって? 「若い子」だ。4番目に人気なのは「乳房」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税交渉で来週早々に訪米、きょうは協議してない=赤

ワールド

アングル:アルゼンチン最高裁の地下にナチス資料、よ

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 4
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 5
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 6
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 7
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 8
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 9
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 10
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中