最新記事

東南アジア

ビルマ民主化はどこまで本気か

56年ぶりの米国務長官の公式訪問は評価の表れ? 改革路線で欧米に接近するビルマの本音はどこに

2012年1月17日(火)17時20分
レノックス・サミュエルズ(バンコク)

初めの一歩 歴史的なビルマ訪問で、スー・チー(右)と会談したヒラリー(2011年12月) Reuters

 ヒラリー・クリントン米国務長官が11月30日から12月2日まで、ビルマ(ミャンマー)を公式訪問する。国務長官がビルマを訪れるのは過去半世紀で初めてだ。

 今回の訪問は、バラク・オバマ大統領による「試験」の一環でもある。ビルマに芽生え始めた改革の兆しは単なる見せ掛けか、それ以上のものか──。 

 ビルマは昨年、20年ぶりに実施した総選挙で「民政移管」を行った。とはいえ長年弾圧されてきた反体制派も、亡命した民主化活動家も国際社会も、ビルマの民主化はうわべだけだと考えていた。裏では数十年にわたり権力を握ってきた軍部が糸を引き、独裁的な体制を維持するはずだ、と。

 だが新政府は(ビルマの基準からすれば)驚くべき行動に出ている。昨年11月に民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーの自宅軟禁を解き、これまでに政治犯200人以上を釈放した。

 そのおかげか、11月中旬にクリントンのビルマ公式訪問が発表され、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議ではビルマが2014年の議長国に就任することが正式に決まった。それだけではない。スー・チーは先頃、来年行われる国会上下両院の補欠選挙に、自ら率いる国民民主連盟(NLD)が参加することを表明した。

 こうした進展は孤立状態を解消するのに役立つはずだ。問題は、ビルマのテイン・セイン大統領がどこまで本気かということ。さらに重要なのは、どこまで変革を認めるつもりがあるのか、だ。

 クリントンの訪問は「歴史的チャンス」であり、ビルマには「前進の兆し」が見えるとオバマは語った。そうは言っても、大きな期待を寄せているわけではない。

 その点は、クリントン本人も同じだ。今回の訪問は外交であると同時に、ビルマの「実態調査」でもあると、彼女は米ニュース番組で発言した。「ビルマへの経済制裁は解除しない。これまでの方針を突然転換することもない」

中国一辺倒からの脱却

 最近の流れを受け、ビルマの体制批判派に広がっているのは警戒ムードだ。彼らの間では、慎重かつ楽観的な見方と懐疑的な意見が入り交じっている。

 「警戒しつつも楽観視できるのには訳がある」と言うのは、タイを拠点に発行されている亡命ビルマ人向け雑誌「イラワジ」の編集者アウン・ゾーだ。「ビルマの支配層の間では、穏健路線に転換するしか道はないとの認識が一般的になっている。彼らはASEANとの絆の再建や、アメリカをはじめとする欧米諸国との関係修復を目指している。行く手にアメリカが立ち塞がっていては、より良い方向どころか、どこへ進むこともできない」

 ビルマ政府にとっては、今こそ政府に対する懸念が誤りだと証明するチャンス。ASEAN議長国に就任すれば「指導層はよりまともな行動を取るだろう」と、イラワジでは指摘されている。「現政権がアメリカとの間の緊張を解消し、中国と距離を置きたがっているのは公然の秘密だ」

 アウン・ゾーらが言うように、最大の庇護者である中国だけを当てにしてはいられないと、ビルマ政府は気付き始めたのかもしれない。人権を侵害し、少数民族を迫害するビルマへの制裁措置に、中国は強く反対してきた。だが中国の後押しがあっても、経済制裁が解除されるめどは立たず、国際社会におけるビルマ政府の評判はほとんど向上していない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府閉鎖回避の見通し、移民当局巡る協議は継続 下

ワールド

米、ベネズエラ石油産業の制裁緩和 米企業に限定・中

ワールド

再送-トランプ氏、30日午前に大統領令署名へ FR

ビジネス

インドネシア証取CEO辞任、株価急落で時価総額80
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 3
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大胆な犯行の一部始終を捉えた「衝撃映像」が話題に
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    パキスタン戦闘機「JF17」に輸出交渉が相次ぐ? 200…
  • 8
    日本経済を中国市場から切り離すべきなのか
  • 9
    配達ライダーを飲み込んだ深さ20メートルの穴 日本…
  • 10
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 8
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中