最新記事

中東

戦争の崖っぷちでも強気なイラン

イラン産原油の禁輸措置には、ホルムズ海峡封鎖で対抗するという強硬姿勢に、軍事衝突の可能性は高まる一方

2012年1月10日(火)17時37分
ジェーソン・レザイアン

一触即発 ホルムズ海峡付近で軍事演習を行うイラン軍(1月1日) Reuters

 この数週間、イランの核兵器開発疑惑が深まり、欧米諸国とイランの関係はまさに一触即発。欧米による経済制裁の強化は、イラン経済にも大混乱を引き起こそうとしている。

 イランでは通貨リアルへの信用が急速に揺らぎ、物価は日に日に上昇している。「うちの商売にも大打撃だ。昔は必要なものはすべて国内で作っていたが、今では米さえ十分に自給できない」と、首都テヘランの中心部で商店を営むハメドは言う。「(リアル安のせいで)輸入品の仕入れ値が高くなるから、残念ながら物価が上がる」

 バラク・オバマ米大統領は12月31日、イラン中央銀行と取引のある各国の金融機関に制裁を課すことなどを含む強行な対イラン経済制裁法案に署名した。実施されればイランは国際金融システムから完全に締め出されることになるため、アメリカやイスラエルを含む欧米諸国との全面対決への懸念が高まっている。

 リアル相場は新年早々、乱高下を繰り返しており(大半は下落)、12月半ばに1ドル1万3000リアルだった対ドル相場は、1月8日には1万6500リアルに下落した。
 
 それでも、イランのマフムード・アハマディネジャド大統領は強気の姿勢を崩していない。欧米諸国がイラン産原油の輸入禁止措置を実施した場合には、中東の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を封鎖すると警告。そうなれば原油価格は急騰し、世界経済は大きな打撃を被るだろう。ただし、最も深刻な影響を受けるのは最大の収入源を失うイランだというのが、大方の専門家の見方だ。

「敵が我が国の原油輸出を阻止するのなら、油一滴たりともホルムズ海峡を通さない。それが、この手の脅迫に対するイランの戦略だ」と、イラン革命防衛隊の副司令官アリ・アシュラフ・ノウリは地元紙に語った。

 さらに、イラン革命裁判所が9日に下した判決もアメリカの神経を逆なでする。米中央情報局(CIA)工作員だったとして拘束されたイラン系アメリカ人男性に、死刑判決が下されたのだ。

 戦争の足音が近づくにつれて、イランの一般国民の間にはナショナリスト的なプライドが広がっている。「アメリカにせよイスラエルにせよ、それ以外の国にせよ、イランを攻撃するのなら、我々は戦う」と、ある子持ちの主婦は言う。「イラン・イスラム共和国のためではなく、私たちの祖国のために」

米軍がイラン人漁民を救出

 制裁が続き、経済事情が一段と悪化することを見越しているのか、イランは核問題をめぐる六カ国協議の再開に前向きな意向を示している。その一方で、先週末には地下核施設の1つで近々、ウラン濃縮活動を始めると表明。また革命防衛隊はペルシャ湾で新たな軍事演習を2月に行う計画を進めており、ちぐはぐな外交戦略が続いている。

 険悪なアメリカとイランの関係に一つだけ、明るい話題があった。アラビア海で展開中の米空母「ジョン・C・ステニス」艦隊の駆逐艦が1月5日、ソマリア海賊の人質になっていたイラン人漁民13人を救出したのだ。

 さらに驚きなのは、イラン側の公式な反応だ。「イラン人船員の命を救った米軍の行為は人道的なものであり、歓迎している」と、イラン外務省の広報官ラミン・メーマンパラストは国営テレビで語った。「どの国もこうした行動を取るべきだ」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中