最新記事

少子化

中国は先進国になれない

最大の強みだった豊富な労働力は過去のもの。巨大な成長マシンが一気に崩れる意外な理由とは

2012年1月5日(木)11時43分
千葉香代子(本紙記者)

箱は空っぽ 100万人都市を作る再開発を祝う内モンゴル自治区オルドス市の看板 David Gray-Reuters

 01年の会社設立からわずか10年でシャープや京セラといった日本勢を蹴散らし、世界の太陽光発電パネル市場のトップに立った江蘇省無錫のサンテックパワー(尚徳電力)は、「日中逆転」の象徴として話題の企業だ。

「とても面白いところだった」と、最近その工場を訪ねたある証券会社のアナリストは言う。クリーンルームに入るため靴を履き替え帽子をかぶり、ガラス越しに各工程の説明を受けるのはほかの最先端工場と同じ。違うのは、クリーンルームの中が「人でいっぱいだった」ことだ。

 一見すると最先端技術の塊のような太陽光発電パネルの製造も、中国の手に掛かれば人件費の安さに依存した労働集約型のビジネスモデルになる。サンテックの例は、先進国になれるのかそれとも新興国止まりなのか──大きな岐路に立つ中国経済の姿を鮮明に映し出している。

 決定的な鍵を握るのは、2015年をピークに生産年齢人口(15〜64歳)が減少の一途をたどる急速な少子高齢化と、それに対する産業や経済の適応力だ。

 一見、中国は今の勢いで先進国の仲間入りを果たすかのように見える。中国は昨年、GDP(国内総生産)で日本を抜き世界第2位の経済大国に躍り出たばかり。うまくすれば、1人当たりGDPでも現在の4000ドルから、世界銀行による「高所得国」の定義である1万2000ドルを達成するかもしれない。

「3人でできる仕事を10人でやりながら競争力を保っているということは、いま進めている自動化が進めば、労働人口が減ってもなお競争力が増す可能性があるということだ」と、先のアナリストは言う。

 一人一人の生産性が上がれば、生産年齢人口が減っても中国は高成長を維持し、自動化であぶれた労働者も新たな雇用で吸収できる。結果的に格差は縮小し、誰もが衣食住足りて文化的な生活を送る先進国のイメージに近づくことも不可能ではない。

 だが、そう楽観的でないもう1つのシナリオもある。サンテックのクリーンルームのように、中国経済がいつまでも安価な大量の労働力頼みに終わるという可能性だ。資本集約型への生産シフトや技術革新による生産性の向上が達成できなければ、生産年齢人口が減っていくなか、これまでのような成長はとても望めなくなる。見掛け倒しを露呈した高速鉄道の事故は、氷山の一角かもしれない。

 今のところ現実味があるのは後者のシナリオだ。世界銀行は5年ほど前から、中国が「中所得国の罠」に陥る危険性を指摘してきた。1人当たりGDPで見ると、中国は「後開発途上国」「低所得国」の段階を脱して中所得国の位置にいる。「中所得国の罠」とは、次のステージである高所得国になる前に成長が止まってしまうことだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独消費者信頼感指数、5月は3カ月連続改善 所得見通

ワールド

バイデン大統領、マイクロンへの補助金発表へ 最大6

ワールド

米国務長官、上海市トップと会談 「公平な競争の場を

ビジネス

英バークレイズ、第1四半期は12%減益 トレーディ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中