最新記事

独占インタビュー

IMFセックス疑惑のメイドが独占激白
【第4回】DNA鑑定が語らないこと

IMF前専務理事ストロスカーンを性的暴行容疑で訴えた客室係が本誌だけに語った事件の一部始終

2011年7月28日(木)17時38分
クリストファー・ディッキー、ジョン・ソロモン

 2806号室ではディアロの唾とストロスカーンの精液が混じった唾液が発見されており、2人の間に性的関係があったことは疑いようがない。ストロスカーンの弁護団は早い時点で、合意の上の行為だった可能性を指摘。ただし、ディアロが金銭の見返りを求めて関係をもったのか(実際には金は受け取っていない)、ここまで暴力的な行為になると思わずに合意したのかという点については、断言していない。

 ニューヨーク・ポスト紙は匿名の情報源への取材に基づいて、ディアロが売春まがいのことをしていたと報じた。ディアロの弁護士であるケネス・トンプソンとダグラス・ウィグダーは、虚偽報道だとしてポスト紙を訴えたが、同紙は記事は事実だと主張している。

 ニューズウィークの取材中、ディアロはストロスカーンへの怒りを隠そうとしなかった。「彼のせいで、私は売春婦呼ばわりされている。彼には刑務所に入ってほしい。権力やカネが役に立たない場所があると思い知ってほしい」

 ディアロは、ストロスカーンに神の裁きが下ることを望んでいる。「私たちは貧しいけれど、善良だ。私はお金のことなんて考えていない」

 もっとも、彼女の言葉が信用されるかどうかは微妙なところだ。マンハッタンの地方検事サイラス・バンスは、ストロスカーンの弁護団に宛てた6月30日付けの文書の中で、ディアロの過去についていくつもの嘘やごまかしがあると指摘した。子供は1人なのに、2人分の税控除を申請したうえ、住宅費を安く抑えるために収入を低めに申告していた。さらに重要なことに、アメリカへの亡命申請の際にも嘘をついていた。

 夫と死に別れたディアロは2003年、当時7歳だった娘をギニアに住む自分の兄弟に預けて渡米した。労働ビザもないまま入国した彼女は、しばらく親戚と暮らしながら、髪を編む仕事で生計を立てた後、ブロンクスの雑貨店で働きはじめた。

 亡命を申請したのは03年後半。子供時代に性器を切除された事実が医師の診断書にも記されているため、嘘をつかなくても、アメリカの現行法に基づいて亡命が認められる可能性は高かった。しかも、ディアロは夜間外出禁止令の発令中に2人の兵士にレイプされたと訴えていた(ありえない話ではない。ギニアの首都コナクリの競技場では09年、160人もの女性が兵士にレイプされて殺害されたという)。

 ディアロの母国での状況がひどかったのは事実だが、アメリカ政府への亡命申請にはさらに脚色が満載だったと、ディアロ自身が認めている。おかげでディアロは、グリーンカード(永住権)を与えられ、娘をアメリカに呼び寄せることができた。

 とはいえ、過去に虚偽の申し立てを行ったという事実は重い足かせになる。ディアロの証言に基づいてストロスカーンを有罪にすることはできないかもしれない。

次は客室担当ではなく洗濯係がいい

 検察当局がストロスカーンを起訴するか決定するまでに、おそらく数週間かかるだろう。だがDNA鑑定の結果、2人に性的関係があったことは明らかであり、当局は今も起訴に自信をもっている。また、ディアロが事件から24時間以内に上司2人とホテルの警備員2人、病院関係者、警察に語った内容に一貫性があるという印象ももっている。

 ディアロの過去に関する問題が公になるずっと以前から、検察当局はディアロの経済状況の調査に乗り出し、彼女が恐喝や犯罪行為に関与した証拠を求めて友人に聞き込みをしていた。その結果、怪しげな人々との接点や不審なカネの流れが見つかったが、ストロスカーンを罠にはめる計画を立てていたという証拠は見つからなかった。

 ディアロはこの数年間、ブロンクスの不法に近い移民コミュニティーの隅っこで暮らし、胡散臭い連中とも付き合ってきたのだろう。だが、だからといって、彼女が野獣のような男の餌食になった可能性を否定することはできない。同時に、ディアロがこの状況を利用してカネを得ようとした可能性も排除できない。

 事件から数週間、当局の保護下に置かれていたディアロが今回、ニューズウィークの取材に応じたのは、メディアが作り上げた誤ったイメージを訂正したかったからだという。自分の証言は終始一貫していると、彼女は訴える。「この男が私に何をしたのか話してきた。内容は何も変わっていない。私はこの男がしたことを知っている」

 将来の話になると、ディアロは再びホテルで働きたいが、客室担当ではなく洗濯係がいいかもしれない、と話した。確かに、客室のドアをノックして、「すみません、ハウスキーピングです」と声をかける経験など、二度としたくないはずだ。

【第1回】「男は私に襲いかかった」
【第2回】「私は嘘などついていない」
【第3回】「発情したチンパンジー」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中