最新記事

リビア

カダフィの首を捕り損ねたNATO

政府軍拠点を狙った空爆からは逃れたものの次第に追い詰められつつあるカダフィはニカラグアに亡命か?

2011年4月26日(火)16時41分

精密爆破? リビア政府の案内でメディアに公開された空爆現場 Louafi Larbi-Reuters

 NATO(北大西洋条約機構)は25日未明、リビアの首都トリポリにあるムアマル・カダフィ大佐の拠点バブ・アジジヤ地区に大規模な空爆を行った。NATOが「精密爆撃」と呼ぶこの攻撃で、カダフィの事務所や図書館が破壊されたという。

 空爆されたとき、カダフィがどこにいたのかは分かっていない。だがリビア政府報道官によるとカダフィにけがはなく、安全な場所にいるという。

 追い詰められてきたカダフィの今後については、亡命する場合、ニカラグアが有力だとの見方がある。ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領は、世界の指導者の中でカダフィを公然と支持する数少ないうちの1人だ。25日にはウィキリークスが暴露した米外交公電によって、オルテガがカダフィの甥を自分の側近として政権に迎えていることが明らかになった。

 ニカラグアやコスタリカの新聞が報じたところによれば、カダフィの甥でニカラグア国籍を取得しているムハマド・ムクタル・ラシュタルが07年よりオルテガの個人秘書や外交アドバイザーとして仕えているという。ラシュタルはリビア政府の諜報機関と深い関係にあったともいわれる人物だ。

「白旗をあげるつもりはない」

 NATOのリビア空爆は既に1カ月以上続いているが、誤爆による民間人の犠牲や、カダフィ派の徹底抗戦による戦況の膠着化などが指摘されてきた。リビア政府報道官は今回の空爆について、軍事施設ではない政府機関の事務所が攻撃され、職員や警備員3人が死亡、45人が負傷、うち15人が重傷を負ったと主張している。

 一方のNATO軍は、カダフィ政権が民間人を攻撃するのに使用している情報司令部を狙った「精密爆撃」だとの声明を発表。しかしリビア政府当局は「カダフィへの暗殺未遂だ」と非難している。

 今回の空爆は、これまでで最大規模とみられる。カダフィの次男セイフ・イスラム・カダフィはこの攻撃を「卑劣だ」と非難し、「この攻撃は幼い子供たちを脅えさせるかもしれない。だが我々は白旗をあげるつもりはないし、恐れてなどいない」とリビアの国営テレビに語った。

「お前たちNATOは工作員や内通者、スパイに囲まれている。だがムアマル・カダフィには大勢の同志がついている。敗北に向かっているのはお前たちのほうだ。工作員やスパイに頼って勝利できるた国がないことは歴史が証明している」と、強気の姿勢を崩していない。

 しかしトリポリの東にある都市ミスラタでは、カダフィ政府軍が劣勢に立たされてきていると、拘束された政府軍の兵士がAFP通信に語っている。「多くの兵士は降伏したいと思っているが、反政府軍に処刑されることを恐れている」

 ハーリド・カイム外務副大臣は24日、地元部族との対立を「武力ではなく平和的に」解決するため、政府軍はミスラタへの攻撃を一時停止していると語っていた。だが報道によれば、ミスラタでは今でもロケットや自動小銃の音が鳴り響いている。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中