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金正日を追い詰める大予言の「Xデー」

「強盛大国に生まれ変わる日」まであと1年。実現できなければ、業を煮やした国民が中東流の民主化運動に目覚める可能性も

2011年4月18日(月)17時21分
デービッド・ケース

瀬戸際 金正日が90年代から繰り返してきた予言のデッドラインが迫っている Petar Kujundzic-Reuters

 曖昧な予言ほど当たりやすい──有能な予言者なら誰でも、この法則を熟知している。重大な出来事について予言するなら、それがいつ起きるのか明言してはいけない。少なくとも、予言が現実にならない場合に備えて、予言の有効期限をできるだけ先延ばしにするほうがいい。

 北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記は、この法則を守らなかったために苦境に立たされている。金は飢えに苦しむ2400万人の国民に向けて、今から約1年後にあたる2012年4月15日に「『強盛大国』への扉が開け放たれる」という予言を繰り返してきた。この日を境に、食糧危機で数百万人が死亡した90年代以降の苦難から解放される、というわけだ。 

金が最初にこの予言を発したのは90年代後半。父親である金日成(キム・イルソン)国家主席の死後、息子の金にはソ連崩壊後の苦難の時期に国を引き継いだ自分の統治体制を定義するスローガンが必要だった。そこで当局は、国民が「外国を羨むことなく」暮らせるよう、強大な軍事力と経済的な繁栄を兼ね備えた強盛大国をめざそうとした。

 その夢が現実になる可能性が低いことは、金も承知していたはずだ。それでも彼は、父親の生誕100周年にあたる2012年4月15日を運命の日に選んだ。その後もこの予言にこだわり続け、さまざまなプロパガンダを介して「明るい未来が必ず訪れる」と国民に呼びかけてきた。北朝鮮からの亡命者らで作るネット新聞「デイリーNK」によれば、2010年の新年に金が1年の統治構想を表明した共同社説には、「強盛大国」という語が19回使われたという。

 問題は、約束の日まであと1年を切った今、目標実現に残された時間が短すぎること。確かに軍事的には、少しばかりの核を手にしたおかげで、韓国の哨戒艦を沈没させても、延坪島を砲撃しても報復を受けない程度の力は手に入れた。しかし、経済的な繁栄は別の次元の話だ。

市民に広がる「強盛大国への慢性疲労」

 金政権は昨年12月、4人の市民を公開処刑にしたという。「4人はセメント工場の一角で銃殺されたと伝えられている」と、デイリーNKは報じた。

 1人は変圧器から石油を盗み、もう1人はケーブルを盗んだため。3人目が盗んだのはトウモロコシ50キログラム(20ドル以下の価値しかない)だった。4人目の理由はわからないが、いずれにしても物資不足が深刻な北朝鮮ならではの犯罪と言えるだろう。

 ここにきて金が取った行動は「予言の撤回」だ。北朝鮮が今年初めに発表した国家経済開発10カ年計画は、「強盛大国の実現に失敗したトップの責任を回避するために作られた面が大きい」と、デイリーNKは指摘している。

 北朝鮮政府が掲げたのは、「強盛大国の扉を開くための基礎」づくり。その一方で、金は国際社会に食糧支援を要求している(国連の推計では国民の4分の1が食糧難に陥っている)。

 北の内情は何も変わっていないように見えるが、韓国の金炯オ(キム・ヒョンオ)元国会議長に言わせれば変化の兆しはあるという。「強盛大国への慢性疲労シンドローム」が、抑圧された市民を中東スタイルの民主化運動へと駆り立てる可能性がある、というのだ。「金一族の第3世代への権力継承を脅かす要素は至るところにある」と、金は言う。

GlobalPost.com特約

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