最新記事

欧州

オランダよお前もか!イスラム差別

極右自由党の連立政権参加で「寛容の国」に反イスラムの嵐が吹き荒れる

2010年10月5日(火)17時13分
クリストファー・ビーム

不敵な笑み 筋金入りのムスリム嫌い、ウィルダース自由党党首 Fabrizio Bensch-Reuters

 オランダの極右政党「自由党」のヘールト・ウィルダース党首が10月4日、イスラム教徒に対する憎悪を煽ったとしてアムステルダムの法廷に立たされた。

 ウィルダースと言えば、イスラム教の聖典であるコーランを「ファシスト」と呼んでヒトラーの『わが闘争』になぞらえたり、08年にはコーランの数節と9・11テロの映像をリンクさせた短編映画『フィトナ』を公開した、筋金入りの反ムスリム派だ。

 オランダで反ムスリムを叫ぶのはウィルダースだけではない。04年には映画監督のテオ・ファン・ゴッホがムスリム批判の発言をした直後に殺害され、02年には移民排斥を掲げる右派政治家のピム・フォルタインが殺された。

 なぜオランダでは、これほどまでにムスリム批判の声が聞かれるのだろうか。理由は簡単。国土面積が小さくて人口密度が高い国にあって、人口に占める移民の割合が多いからだ。

 ヨーロッパで移民排斥を掲げる政党が躍進している国は他にもある。フランス議会はイスラム教徒の女性が顔や全身を覆うベール「ブルカ」を禁じる法案を可決したばかり。スイスでは昨年、国民投票でイスラム風尖塔「ミナレット」の新築が禁じられた。オーストリア自由党は今年の選挙戦で、移民排斥のスローガンを高々と掲げた。

売春街や大麻カフェはOKなのに

 しかしオランダはこうした国々よりも、そしてヨーロッパの他の主要国よりも人口密度が高い(1平方キロメートル当たり400人)。さらに移民の割合も近隣諸国に比べて高い。オランダでは1000人に2.55人が移民で、総人口1600万人のうち6%がムスリムだ(オーストリア、スイス、ドイツでは、約4%)。

 イギリスなどの国ではムスリムはスラム街に押しやられているが、オランダのムスリムは目に付きやすく、彼らの生活圏の多くがキリスト教徒のそれと隣接していて、双方の行き来も頻繁だ。

 周辺国の流れに乗るかのように、オランダの政界でもここ数カ月は特に移民排斥の声が高まっている。6月に行われた下院選挙(定数150)では、ウィルダース率いる自由党は議席数を9議席から24議席に伸ばし、第3党に躍進した。

 この選挙で第1党となった中道右派の自由民主党と、第2党のキリスト教民主勢力は両党の議席を合わせても過半数に達しなかったため、第3党の自由党にも連立を持ちかけるしかなかった。これで、ウィルダースは政策への影響力も手に入れた。先週公表された新連立政権の合意文書には、ブルカを禁止する方針が盛り込まれた。

 外国メディアもオランダの移民排斥ムードを盛り上げるのに一役買っている。ファン・ゴッホとフォルタインの衝撃的な暗殺事件の報道は、オランダの宗教対立をめぐる緊張が他のヨーロッパ諸国より高まっていることを強調していた。

 ともあれ、オランダの反ムスリム機運が注目されるのは、この国が売春街と大麻カフェで知られ、多元主義と寛容の精神を掲げているから。どうやらクスリは許せても、あらゆる宗教を受け入れるという懐の深さはないようだ。
 
Slate.com特約)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相と中国の習氏が初会談、「戦略的互恵関係」の

ワールド

米中国防相が会談、ヘグセス氏「国益を断固守る」 対

ビジネス

東エレク、通期純利益見通しを上方修正 期初予想には

ワールド

与野党、ガソリン暫定税率の年末廃止で合意=官房長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中