最新記事

米外交

アフガン銀行危機の不快な茶番

取り付け騒ぎで支援が必要になった銀行は、カルザイ政権の腐敗の温床だった。アメリカはなぜこんな国を助けるのか

2010年9月7日(火)17時17分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

 アフガニスタン最大の商業銀行カブール銀行は「大き過ぎて潰せない」銀行か?

 9月1日、同行の会長夫妻がドバイの不動産に投資して多額の焦げ付きを出したというスキャンダルが明るみに出ると、不安に駆られた預金者が支店に詰め掛け、3日までで数億ドルの預金が引き出された。

 この取り付けで、カブール銀行が債務超過に陥る恐れが一気に高まった。報道によれば同行のカリルラ・フロジCEO(最高経営責任者)は責任を取って会長とともに解雇される前、「預金の引き出しが続けば、我々は生き延びられない。人々が銀行を信用しなくなれば、金融システムに革命が起こるだろう」と語っていた。

 アフガニスタンのハミド・カルザイ大統領は政府が預金の全額保護を約束し、一方米政府はカブール銀行に対する金融支援は「一切しない」と言った。

 だが、この発言の違いにはあまり意味がない。何しろアフガニスタン政府そのものが完全に海外からの支援で成り立っている。そしてその支援の多くはアメリカの納税者のものだ。アフガニスタンの金融システムが崩壊するのをアメリカは本当に手を拱いて見ていられるというのだろうか。

カルザイもう一つの裏切り

 それに近代的な金融システムの構築は、アメリカがアフガニスタンの国家建設に乗り出した時点で自動的に政策課題の一つとして組み込まれている。

 ミシガン大学のファン・コール教授(歴史学)はカンカンだ。無理もない。内乱鎮圧活動の専門家たちの常識では、アフガニスタンで国家建設を成すためには地元住民の支持をバックにした信頼できるパートナーが必要不可欠だという。

 アメリカにそうしたパートナーがいないことは明らかだ。何しろカブール銀行は、海外からの支援を原資としながらカルザイの家族や政権幹部の資金源になっていたとされる。銀行危機は、我々のパートナーであるべきカルザイ政権がいかに腐敗しているかを示す新たな証拠だ。

 だとすれば、そもそも我々はアフガニスタンでいったい何をしているのだろう?

Reprinted with permission from Stephen M Walt's blog,07/09/2010.©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英、「影の船団」対策でロ石油大手2社に制裁 中印企

ビジネス

TSMC、通期見通し上方修正 第3四半期39%増益

ビジネス

8月第3次産業活動指数は2カ月ぶり低下、基調判断据

ワールド

維新が自民に政策提示、企業献金廃止など12項目 1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中