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中東和平

直接交渉再開!の芝居に騙されるな

現実を見れば二国家共存が実現する条件は何一つなく、あるのはアパルトヘイト型国家という未来像だけだ

2010年8月26日(木)18時35分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

既成事実 ユダヤ人入植地の周りにはパレスチナ側からの攻撃から身を守るためと称して「分離壁」が建設されている Baz Ratner-Reuters

 9月2日、イスラエルとパレスチナの間で和平に向けた「直接交渉」が再開される運びとなった。だが過去20年(少なくとも)の経過を振り返れば、これが大きな進展だとはとても言えないはずだ。私もぜひ明るい未来を期待したいところだが、残念ながら近い将来に内容のある協定が結ばれる可能性を示す根拠はほとんど見つからない。

 そう考える理由は3つある。

(1)まとまった領土を持つ一人前の国「パレスチナ国家」をヨルダン川西岸(ゆくゆくはガザ地区を含む)に作り、首都を東エルサレムとし、難民問題への一定の政治的合意を盛り込むという以外の和平案を受け入れる気配はパレスチナ側にない。

 過去のクリントン政権もブッシュ政権もこうした和平案の実現を求めていたし、バラク・オバマ米大統領もこの案を支持しているようだ。

(2)イスラエル政府は象徴的な形でのパレスチナ国家以外、受け入れる気配がない。

 ここで言うパレスチナ国家とは、点在する複数の自治区の総称で、国境も空域も水資源もイスラエルが完全に管理する。ネタニヤフ首相はこれが彼の考える「2国家共存案」だとはっきり表明しており、イスラエルはエルサレム全域の支配を続けると繰り返し述べている。

 67年の第3次中東戦争で拡大した占領地域に暮らすイスラエルのユダヤ人の数は約50万人に達する。与党がどんな政党であれ、イスラエル政府がこの大部分を国内に引き揚げさせようとするなど想像しがたい。

 たとえネタニヤフがもっと協力的な姿勢を採りたいと考えていたとしても、大幅な譲歩など連立相手の政党が許してはくれないだろう。会談が長引けば、違法な入植活動はさらに拡大する。

(3)アメリカ政府がイスラエルに十分な圧力をかける気配がない。

 アメリカは明らかにアッバスに対して限界まで圧力をかけようとしている(今回、アッバスが直接交渉に応じたのも圧力のなせる技だ)。だがオバマと政権の中東問題担当者たちは、ネタニヤフに多少なりとも圧力をかけるそぶりすら見せていない。これではネタニヤフの姿勢の変化など期待できるわけがない。

またアラブ諸国へのパフォーマンスか

 つまり直接交渉の再開が発表されたからといって、中東和平に何らかの意義ある前進が約束されたかのように大げさに受け取るのは間違いなのだ。

 アメリカのジョージ・ミッチェル中東特使とその部下たちは、交渉再開が何らかの進展の表れだと信じているようだ。でもそれは彼らの単なる思い込みか、私たちを欺こうとしているのか、または09年6月のカイロ演説で語ったようにオバマは和平実現に向けた責任を果たすつもりでいるとアラブ諸国に信じさせようとしているかいずれかだ。

 もっとも今のところ、誰もだまされてはいないようだ。外野の人間が納得できる点があるとすればそれはアメリカの政策に変化があったということであり、それこそが今回の会談のはっきりした成果だろう。またも中東和平交渉で結果を出せなかったとなれば、アメリカに和平を実現する力はないという見方をさらに補強するだけだ。

 中東和平を仲介するアメリカ、ロシア、EU(欧州連合)国連の「中東和平4者協議」が出した声明も楽観視する材料にはならない。確かに声明は「当事者間で交渉して得られた解決策により、67年に始まった占領に終止符が打たれ、独立した民主的な一つの国家として存続しうるパレスチナ国家が平和かつ安全にイスラエルなど周辺国と共存していくこと」を求めている。だがこの4者は過去に何度も同じような声明を出したことがあるのに、努力が実った試しはない。

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