最新記事

行政改革

イタリアは官僚仕分け

電子化や査定導入で官公庁の近代化を目指すが、ネット環境が整備されておらず労働組合も反発

2010年8月20日(金)13時14分
シルビア・マルケッティ

 イタリアの行政改革相レナート・ブルネッタには夢がある。透明性と効率、そして能力主義を合言葉に、行政改革を通じてイタリアを近代化する夢だ。

 「改革は身内の役所から始まる」を信条とするブルネッタ、その夢は大き過ぎ、実現は難しそうだが、称賛には値する。

 イタリアでは、労働人口に占める公務員の割合がかなり高い。その数は350万人超で、総人口の約6%に当たる。欧州平均を上回る比率だが、今までは誰もこの問題に手を付けなかった。

 だがブルネッタは昨年、仮病による欠勤などを繰り返す「怠惰な」公務員を取り締まる法案を提出、強引に成立させた。

 この「ブルネッタ改革」は、能力主義と効率改善に対する報奨制度、内部統制システムの導入を目指す。いずれもイタリアの公務員には経験のないことばかり。何と国民による勤務評定まである。彼が最終的に目指すのは、近代的でデジタル化され、創造的な行政システム。要するに諸外国で導入の進む「電子政府」である。

タッチパネルで勤務評定

 当然、身内の評判はよろしくない。何しろ聖域なき改革だ。医療から教育、地方から中央まですべての機関を対象に手続きの簡素化を図り、無駄な部門を廃止し、支出を抑え、既得権(政府所有の車両は63万台以上あり、その経費だけで年間210億ユーロに上る)を取り上げる計画だ。

 公務員の定年は延長し、新規採用は凍結する(今後2年間の採用をゼロにすると、勤務医だけでも1万2000人の自然減が見込まれる)。行政手続きの迅速化とペーパーレス化を促すため、診断書の作成や処方箋の発行から公的機関の窓口業務まで、すべてをオンライン化する計画もある。

 実現に向けて、12月までには中央・地方すべての公的機関を監視する委員会を設置し、公務員の勤務評定には国民の参加も求める。国民とじかに接する場面では、すべての公務員に名札の着用が義務付けられる。責任の所在を明らかにするためだ。

 国民による勤務評定を促すタッチパネル式の端末は、既に数百の官公庁に設置されている。役所の対応に不満なら赤色、満足なら緑色、やや満足なら黄色のアイコンにタッチする仕組みだ。

 この改革は、時間とインフラ整備の戦いでもある。目標の12月まで、残された時間は半年もない。その間に、全国に散らばるすべての公的機関の近代化を完了できるだろうか(今のところ、達成済みとされるのは北部の小都市ムッジョのみだ)。ブロードバンドの通信インフラはまだ普及していないし、そもそもインターネットに接続できない地域も残っている。

有能な人材が割を食う

 病院の診断書のオンライン発行システムは8月までに運用開始の予定だが、最近の調査によると開業医の35%はまだインターネットに接続していない。これではどうにもならないので、開業医たちは連名でブルネッタへの公開質問状を書き、有力紙コリエレ・デラ・セラ紙上で発表、医療の電子化に伴う問題点を訴えている。

 一方、シルビオ・ベルルスコーニ首相率いる中道右派政権による緊縮予算案は先頃成立。早期の景気回復よりも財政再建を優先する姿勢を打ち出し、政府支出の大幅削減に踏み切った。

 ジュリオ・トレモンティ経済・財務相は、今後3年間の公務員の昇給凍結と年収9万ユーロ以上の幹部職員の大幅な減給に踏み切る構えだ。しかし、これでは有能で勤勉な人材が割を食う恐れがある。予算の縮小は効率改善に逆効果との批判もある。

 またイタリア最大の労働組合の幹部らは、行政改革は一定の試行期間を設けた上で段階的に実施すべきと主張している。年金や労働市場などの硬直したシステムの抜本的改革と並行して進めるべきだとの声もある。

GlobalPost.com特約)

[2010年7月28日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米上院、トランプ氏の対イラン戦争権限制限案を否決 

ビジネス

米経済活動、7地区で緩やかな拡大 見通しは全体に楽

ワールド

トランプ氏、FRB次期議長にウォーシュ氏正式指名 

ワールド

米国防総省、重要鉱物の国内供給強化へ提案要請 イラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中