最新記事

語学

中国で中国語は学べない

わざわざ中国の学校に入っても、利点は授業料が安いことだけ。将来への投資なら、もっと賢い方法がある

2010年2月17日(水)16時27分
メアリー・ヘノック(北京支局)

 将来に備えて中国語を習得するのは賢い投資に思えるかもしれない。ならば中国行きの飛行機に飛び乗り、現地の学校に入るのが最善の方法だろうか。

 それは違う。中国で学んだほうが今でも安上がりだが、得な点はそれだけ(一般的に外国人が5カ月分として大学に払う授業料は1800ドル)。中国の語学教授法は教科書が時代遅れで教え方も応用性に欠けていて、おしなべてレベルが低い。

 だからといって諦める人間は少ない。現在、中国に留学する外国人は年間約10万人。毛沢東時代の30年間の合計はたった5万人だから、大した増加ぶりだ。

 中国の経済成長によるニーズの増加が変化の一因だが、それだけではない。中国政府が世界各地に設立する中国語学校「孔子学院」は、1年間の留学に生徒を送り込んでいる。中国の大学も夏期集中講座を強化して、積極的に外国人(と彼らのカネ)を集めている。

 しかし留学した大半の人が失望する。北京屈指の語学教育機関とされる北京語言大学を例に取ろう。ここに1年通ったケニア人のムトゥネ・キシルー(19)は、中国語でコンピューターについて話せるまでになった。だが学校のおかげではない。キシルーは旧式な教科書とやる気の出ない会話の練習には不満だった。

 ノートルダム大学(米インディアナ州)のジョナサン・ノーブルによると、中国での教授法の問題の1つは、漢字の習得に力を入れ、会話の練習にはあまり時間が使われないこと。だから語彙は身に付いても、「さまざまな状況でどのようにしゃべればいいかを自分で考えることができない」。その結果、アメリカで中国語を学ぶほうが中国で学ぶよりも早く流暢にしゃべれるようになる場合があると、ノーブルは言う。

 目上の人間や教師を敬えと説いた孔子にも責任があるかもしれない。その教えはいまだに中国の教育システムに影を落としている。話すのは教師、耳を傾けるのは学生、というわけだ。しかしこのやり方では言語習得に関わる脳の領域が働かないと、職業別外国語学習コースを考案した神経言語学の専門家ランス・ノウルズは言う。

実用と懸け離れた教本

 ノウルズの学習法は中国の大学のやり方と180度違う。重視するのは聞き取りと話すこと。教科書を開くのは最低限に抑える。教科書を見ると脳の言語中枢が怠けてしまうと、ノウルズは言う。

 もちろん教科書にはそれなりの役割がある。しかし中国の教材に漢字表は載っていても、必要不可欠な基礎的文法を使った応用文があまりに少ない。

 学生は現実の場面に重ね合わせたときに、集中して学ぶことができる。なのに中国の教科書はパンダや竹の繁殖、有名な伝統料理などについての退屈な記述にページを割いている。ビジネスの話や実用的な会話にお目に掛かったらラッキーというものだ。

 だとすれば中国語をマスターしたいと思う人はどうしたらいいのか。欧米諸国で高い授業料を払うか、最新の内容をインタラクティブで学べるインターネットを利用するかのどちらかだろう。

 中国の大学も自分たちに問題があることを自覚し始めている。その先頭に立つ1人が、北京語言大学出版社(中国の語学書トップ100のうち上位81冊を出版している)で新しい語学教材開発の責任者を務める苗強(ミアオ・チアン、37)。苗は02年にカナダの大学の協力を得て出版した『新実用漢語課本』を誇りに思っている。教師たちから大きく進歩したと称賛され、現在30万部が使用されている教材だ。

 苗自身もビジネス場面での表現がまだ少ないことを認めるが、改善されているのは確か。どのレベルのテキストも今は5年ごとに内容を見直していると苗は言う。

 とはいえオンライン講座のほうがはるかに時代と歩調を合わせている。現在の不況下で自分の能力をいかに伸ばすか、というテーマが現れているぐらいだから。

[2010年1月27日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:中国メーカーが欧州向けハイブリッド車輸出

ビジネス

アングル:コーヒー豆高騰の理由、カフェの値段にどう

ワールド

シリア反政府勢力、ホムス郊外の「最後の村を解放」と

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の病院に突入 一部医療職員を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 2
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社員にはなりにくい」中年自衛官に待ち受ける厳しい現実
  • 4
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 5
    水面には「膨れ上がった腹」...自身の倍はあろう「超…
  • 6
    まさに「棚ぼた」の中国...韓国「戒厳令」がもたらし…
  • 7
    「際どすぎる姿」でホテルの窓際に...日本満喫のエミ…
  • 8
    健康を保つための「食べ物」や「食べ方」はあります…
  • 9
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 10
    「もう遅いなんてない」91歳トライアスロン・レジェ…
  • 1
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社員にはなりにくい」中年自衛官に待ち受ける厳しい現実
  • 4
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 5
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 8
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 9
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 10
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 9
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 10
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中