最新記事

イタリア

集団セックス殺人が変えた人生たち

被告アマンダ・ノックスの判決がどうなろうと、彼女の周囲の人々は既に立ち直れないほどの傷を負っている

2009年9月29日(火)14時47分
バービー・ナドー(ローマ支局)

異国にて イタリアで裁判を受けているノックス(5月8日) Daniele la Monaca-Reuters

 イタリアのペルージャで、イギリス人留学生メレディス・カーチャーが集団セックスを強要されたうえに惨殺されたのは07年11月1日。被告の1人として裁判を受けている米シアトル出身のアマンダ・ノックスは、劣悪な環境の刑務所に入れられている。有罪と決まったわけではないが、彼女の人生は崩壊したも同然かもしれない。

 とはいえ周辺の人々も立ち直れないほどの傷を負った。カーチャーの母親は鎮静剤を常用。ジャーナリストの父親は裁判費用を捻出するため、事件についての本を執筆中だ。いずれ裁判で有罪を言い渡される者を相手取り3300万ドルの損害賠償を求める訴訟を起こしているが、裁判に勝っても娘は戻らない。

 ノックスの両親は離婚。父親によると、裁判やイタリア行きの費用で莫大な借金を背負っている。父親は現在、失業中の身だ。

 ノックスが当初、犯人と名指ししたパトリック・ルムンバは、経営していたバーを閉店。無実の罪で2週間投獄された彼はノックスに50万ドル以上の賠償を求めている。犯人の1人として懲役30年の有罪判決を受けたルディ・ハーマン・グエデは、犯罪現場にいたことは認めたが殺人とは無関係だと主張。控訴審は11月に始まる。

 ノックスの恋人で被告でもあるラファエル・ソレチトの弁護士の2人は協力関係を解消。法医学の専門家として雇われた人の間でも意見が対立し、何人かが身を引いた。事件のブログも花盛りで、シアトルではブロガーが別のブロガーを警察に訴える事件まで起きた。

 イタリアの裁判は時間がかかるが、この事件の裁判の進み具合はとりわけ遅い。ノックスとソレチトが殺人罪などで有罪になれば終身刑が宣告される。だが判決がどうなろうと、本人たちはもちろん、周囲の人々の人生にとっても事件は消せない傷になるだろう。

[2009年9月23日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中