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「ナイジェリアのタリバン」は敵じゃない

2009年8月5日(水)18時53分
スコット・ジョンソン(アフリカ総局長)

目立つために「タリバン」を名乗る

 とはいえ、イスラム主義の影響も事件を誘発した一因ではある。穏健派から過激派までさまざまなイスラム組織が長年、ナイジェリア社会に食い込もうとしている。

 厳格な復古主義を唱えるサウジアラビアのワッハーブ派や、エジプトのムスリム同胞団は、90年代半ばに進出。ナイジェリアでイスラム法の影響力が着実に増大している(この10年間で36州のうち12州がシャリア法の一部を採用した)のは、政府はもはや良質な統治と機会を提供できないという認識の表れだ。

「多くの人が非道徳的で不公正と感じる状況において、シャリア法には少なくとも一定の合法性と道徳がある」と、ジョンズ・ホプキンス大学のルイスは言う。

 ただし、ナイジェリアのイスラム系組織は欧米やイスラエルに攻撃を仕掛けるわけではない。パキスタンで拘束されているタリバン兵士の解放を求めることもなければ、捕虜の頭を切り落とすこともない。大衆に恐怖を与える目的で一般人を殺すこともない。

 彼らの狙いは、さらなる自治を獲得し、国家と穏健派のイスラム指導者(シャリアを厳格に守っていないと彼らは信じている)への怒りを表現すること。イスラム支配を復活させたいわけではない。
サウジアラビアやエジプトの影響下にある組織には危険な面もあるが、彼らはグローバルな対テロ戦争の敵ではない。

 ボコ・ハラムの蜂起は極端なケースだったが、それ以上の意味はない。彼らが「タリバン」を名乗ったのは単に注目を集めたかったからだろう。

 本当に懸念すべきは、ナイジェリア社会の分断によって、北部での穏健なイスラム主義に若者や失業者が嫌悪感をいだき、より過激な思想に走ることだ。

 実際、南西部のニジェール・デルタ地帯では反政府勢力が外資の石油施設を攻撃し、政府は重要な外貨の収入源を守るために武装勢力の制圧に取り組んでいる。

 ボコ・ハラムの反乱は一連のうねりの中の小さなさざ波に過ぎなかったが、何かのきっかけで深刻な事態に発展する可能性は十分ある。もしも国内各地で反乱が勃発したら、ナイジェリア政府はグローバルな対テロ戦争のことなど心配する余裕はない。

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