最新記事

中国経済

不機嫌な中国のアメリカ離れ幻想

2009年7月29日(水)15時15分
ザカリー・カラベル(米調査会社リバー・トワイス・リサーチ社社長)

政府は反米ナショナリズムを警戒

 中国政府が今のところドル離れと分散投資に及び腰なのも驚くにあたらない。本気でやれば、アメリカ人が中国製品を買うのは難しくなる。

 中国の銀行は今、米国債でも30年物より10年物を購入するなどより短期の投資にシフトしている。短期的に危機を招くことも長期的に対米投資を増やすことも、どちらも望んでいないということだ。

『不機嫌な中国』派の主張の1つは、中国指導層のエリートはアメリカと親しくし過ぎて腐敗し、西側製品のとりこになったというもの。その主張は中国3億人のネチズンが見る数千のブログで流布されている。こうしたブログを「サイバーナショナリズム」の一形態と見て、中国政府関係者も注意深く監視している。

 独立を求める世論をなだめるような政策もいくつか出てき始めた。コカ・コーラが中国最大手のジュースメーカー中国匯源果汁を23億ドルで買収しようとすると、中国政府が待ったをかけた。表向きは、独占禁止法に違反し競争を妨げるという理由からだ。

 他のアメリカ企業にも、中国当局はかつてのように便宜を図ってくれなくなった。化粧品の訪問販売で大成功を収めているエイボン・プロダクツは、同社の訪問販売員に不適切な行為があったとされ社内調査を進めている。本当に何かがあったのかもしれないが、中国市場で外国ブランドが目立つことに対する中国当局の不快感の表れというほうが考えやすい。

「何でも民主主義のせいにするな」

 6月初めには、中国企業がゼネラル・モーターズ(GM)のSUV(スポーツユーティリティー車)ブランド「ハマー」を買収すると発表した。アメリカ企業から国内市場の支配権を奪回したいという野心の表れだ。

 それでも、中国が独立路線を追い求めればいずれ自ら深手を負うことになる。インテルやナイキなどの外国企業が建設し運営する工場は雇用の源泉の1つであり、その製品は中国の輸出のなかでも大きなシェアを占める。

 中国政府は、大手の外国人投資家を切り捨てはしないし、中国からの対米投資を止めることもないだろう。中国の外貨準備を吸収できるほど大きな市場はほかにない。

 モルガン・スタンレーが最近、米政府から受けた公的資金を返すために新株を発行したとき、政府系ファンド(SWF)の中国投資有限責任公司(CIC)は、12億ドルで4400万株を買った。対米投資に対して敵意をあらわにしている大衆レベルの言説とは好対照を成す取引だ。

 実際、『不機嫌な中国』に対する反響のすべてがその愛国主義的な主張に賛同しているわけではない。あるブログは次のように書いている。「この種の本はいつでも何でも民主主義のせいにして、何の役にも立たない」「不公平だと文句を言う代わりに自分たちの問題に対処すれば、経済危機に苦しむ企業や、就職できない学生や、腐敗などなかったはずだ」

 それこそ、中国政府が直視しなければならない問題だ。  

[2009年7月 8日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:日米為替声明、「高市トレード」で思惑 円

ワールド

タイ次期財務相、通貨高抑制で中銀と協力 資本の動き

ビジネス

三菱自、30年度に日本販売1.5倍増へ 国内市場の

ワールド

石油需要、アジアで伸び続く=ロシア石油大手トップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中